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    国際コミュニケーション・トレーニングの脳力開発(2015年5月号)

    INTERVIEW

    事務所の生産性やコミュニケーション力が一変する

    国際コミュニケーション・トレーニングの脳力開発

    国際コミュニケーション・トレーニング株式会社 代表 脳科学者 医学博士 岩崎イチロー

    取締役 メンタルコーチ 心理カウンセラー 岩崎クレア

     

    「天賦の才」(gift)という言葉があるとおり、人の能力や性質は、生まれつき授かったものに大きく左右されると考えられてきた。

    さらに社会人になる頃には能力の発達も頭打ちとなり、以後は固まってしまった能力で何とかするしかないというのが一般的な認識ではないだろうか。実は脳科学の研究が進歩したことにより、こうした認識の多くが誤りだったことが分かっている。

    人の能力を決めているのは資質よりもむしろ習慣(脳の使い方)であり、習慣を変えることで記憶力など、さまざまな能力を高めることが可能だ。こうした最新の脳科学の成果に基づく研修で、企業の業績向上に取り組んでいるのが国際コミュニケーション・トレーニング株式会社(東京都渋谷区)だ。同社は一般企業だけでなく、会計事務所を対象とした研修も行っており、職員のコミュニケーション力の向上や脳力アップ、事務所全体の活性化などで既に成果を挙げている。今回の取材では、国際コミュニケーション・トレーニング代表で医学博士の岩崎イチロー氏(写真右)と、取締役でメンタルコーチの岩崎クレア氏(同左)に、会計事務所の活性化、生産性向上をテーマにお話を伺った。

    脳科学者がコミュニケーション能力を高める研修を実施

     

    ―― 国際コミュニケーション・トレーニング株式会社は、コミュニケーション能力など、さまざまな能力を高めるための研修やコーチング、カウンセリングを行っている企業です。同社の研修を受けた結果、営業マンの営業成約率が2〜3倍に上がるといった成果も出ています。

     同社は一般企業だけでなく、会計事務所向けの研修も行っており、代表の岩崎イチロー先生には、弊誌に連載をご寄稿いただきました。

     今回の取材では、あらためて国際コミュニケーション・トレーニングの取り組みについて伺います。

     まずは岩崎イチロー先生に、これまでの歩みについてお聞きします。先生は以前、米国で脳科学の研究者をしておられたそうですね。

    岩崎イチロー はい。脳科学者の私が、コミュニケーション能力などの向上を目的とした研修やコーチングを行うようになった理由をご説明するためには、私が抱えていた個人的な悩みからお話ししなければなりません。

     その悩みとは、自分が口下手だったことです。どれくらい口下手かというと、結婚相談所から紹介された女性にお会いしても、話せるのは自分の名前と職業まで。その後は頭が真っ白になり、何を話せばよいか分からなくなるくらいでした。

     そのような調子で、相談所には2年間登録しましたが、結果は全滅でした。大学の指導教官からは、「君くらいしゃべらない人間は初めて見た」と言われたこともあります。

     それほどしゃべらない人間でした。もちろん、口下手であることは、私にとって大変なコンプレックスでした。

    ―― 岩崎イチロー先生は京都大学の大学院を修了されたあと、ウィスコンシン大学大学院の博士課程へ進まれています。その後はノースウェスタン大学医学部で准教授を務めた経歴をお持ちです。欧米の研究機関ではコミュニケーション能力が不可欠だと聞いたことがありますが、口下手で大丈夫だったのですか。

    岩崎イチロー 大丈夫ではありませんでした。私が留学した米国の大学では、自分の意見を言えない人間は相手にされません。真面目に研究をしていれば認めてもらえる日本とは違います。大学での研究費を確保するには、自分で自分の研究成果をアピールしなければなりませんでした。

     切羽詰まった状況のなかで私は、コミュニケーション能力を高めるための研究を始めたのです。

    ―― 口下手を克服するために、自分のコミュニケーション能力を高めるための研究をされたということですね。

    岩崎イチロー はい。自らが被験者となり、コミュニケーション能力の実験として、街頭で3000人に声をかけるということもしました。

    ―― 3000人というのはすごいですね。

    岩崎イチロー 「こう話せばうまくいくのでは……」という仮説を立て、その仮説を検証するために、見ず知らずの人に話しかけました。

     このような実験の結果、どのようにすれば人とコミュニケーションがとれるのかが分かり、私は自分の口下手を克服することができたのです。

    ―― 苦手なことを克服するのは簡単ではありません。研究により苦手なものを克服するというのは実に研究者らしいですね。

    岩崎イチロー ありがとうございます。私が見つけたコミュニケーションの方法は実験を通じて実証したものなので再現性がありますし、他の人が口下手を克服するためにも活用することができます。

     この方法は、私と同じように口下手で悩んでいる人の役に立つのではないかと考え、研究の成果を「PPM」という会話法にまとめました。

    円滑な会話のポイントはバランス

     

    ―― 「PPM」とはどのような意味なのですか。

    岩崎イチロー PPMというのは、Push &Pull Methodの略です。「Push(押す)」は2つの状態を意味します。ひとつは相手との関係性の中に緊張感をつくり出すこと。もうひとつは自分のことを語っている状態。「Pull(引く)」にも2つの意味があります。親密感が高まって相手を引き寄せることと、相手から会話を引き出す、つまり相手が話している状態です。

     会話というものは、PushとPullの適度なバランスのなかで行われます。多くの人は、無意識のうちにこのバランスを取っていますが、口下手な人はこのバランスが取れず、会話を滞らせてしまいます。

     しかし、口下手な人であっても、PushとPullのバランスを取る方法さえ理解すれば、会話を円滑に続けることが可能です。それをまとめたのがPPMです。

    ―― 国際コミュニケーション・トレーニングでは、PPMをビジネスに生かすための研修を行っていますね。

    岩崎イチロー 自分が研究してきた脳科学を、コミュニケーションを苦手とする人たちに役立てたいとの思いから、帰国後に会社を立ち上げました。

     ですから当初は社名のとおり、脳科学に基づいたコミュニケーション・トレーニングの研修を行っていました。現在はこれに加えて、脳科学を活用した脳力開発トレーニングをご提供しています。

     脳科学の分野では、記憶力などは生まれ持った資質で変えられないというわけではなく、脳の使い方次第でかなり高められることが分かってきました。こうした研究成果が企業の業績向上に役立つことが分かってきたため、コミュニケーション能力に限らず、脳をより有効に活用するためのさまざまな方法を指導させていただくようになりました。

     ですから、現在のクライアントは企業が中心です。個人向けのコンサルティングも行っていますが、今では対象のほとんどが経営者です。

    脳力開発トレーニングのカリキュラム

     

    ―― 貴社の研修では、具体的にどのようなことを学ぶのですか。

    岩崎イチロー 当社の研修は、講義とワークショップを組み合わせています。また、最初に参加者のコミュニケーションのパターンを分析します。

    ―― コミュニケーションのパターンとはどのようなものなのですか。

    岩崎イチロー これは言い換えると、「思考の癖」です。人には誰でも、その人特有の思考の癖があります。これはコミュニケーションにも表れますから、自分で把握することが大切です。自分の思考の癖が分かれば、コミュニケーション能力などを高めるための課題も見えてきます。

     研修自体は堅苦しいものではなく、大学のゼミのような参加型で進めていくので、「出前ゼミナール」と呼ばれています。私と妻のクレアが先方にお伺いし、直接指導をさせていただいています。

     私が脳科学の理論的な講義を行い、クレアがその理論を現場に落とし込んでいくためのトレーニングをワークショップ形式で行っています。妻はメンタルコーチ兼心理カウンセラーでもあるので、私とはまた違った、女性的な視点から受講者をフォローすることができます。

    岩崎クレア イチローが理論担当、私が実践担当です(笑)。

     夫は研究者ですから探究心が強く、疑問を徹底的に追究し、専門分野を深く掘り下げるタイプです。私は、物事を多角的に見ることを得意としています。タイプが異なる2人で研修をさせていただくことで、多面的かつ深みのある研修が行えます。

    ―― 講義とワークショップがセットになっているのはよいですね。研修のカリキュラムを紹介してください。

    岩崎イチロー カリキュラムのなかでは、「記憶力を高める脳の使い方」なども紹介しています。理論を学んでいただいた後、実践をしていただくと、その場で記憶力が1・5〜2倍になるのを実感していただけます。

     さらに、脳科学に基づいて考案された勉強法についても解説します。これは、「インプットよりアウトプットのほうが、人は学びが深くなる」という、最近の脳科学理論を応用した勉強法です。学校の講義を聴いたり、本を読んで知識を身につけるインプットより、発言したり、作文を書いたりするといったアウトプットのほうが学習効果が高いのです。

     そのほかにも、「脳全体を活性化する脳の活用法」「ストレスなく行動できる脳を作る」「習慣を作る脳の働き」「未来予測を的確にする脳の使い方」「集合知性が個人の脳を活性化する」といった内容のカリキュラムも含まれています。

    ―― 貴社の研修を受けると、どのような成果が期待できるのでしょうか。

    岩崎イチロー 当社の研修は、営業向け、リーダー向け、幹部・中堅管理職向け、あるいはチームワークを高めることを目的としたものなどさまざまですが、すべてコミュニケーション能力向上と同時に、脳の活性化という点に力を入れています。

     ある保険会社のひとつの店舗で、当社の研修を取り入れていただいたところ、明らかに社員さんの業務効率が上がり、時節柄、保険業界全体が落ち込む時期だったにもかかわらず、売上が伸びました。さらには、その店舗から全社中トップの営業成績を収めた社員も出ました。

    脳は使い方次第

     

    ―― 脳は使い方次第で高い能力を発揮できるというのは新鮮なお話です。十代ならともかく、社会人になる頃には自分の能力はある程度固まってしまい、その範囲内で何とかするしかないと思っていました。

    岩崎イチロー そのように考えている方は多いかもしれませんね。しかし、大切なのは脳の使い方なのです。

     例えば、脳をよりよく使うためのキーワードは「前向き」です。日本の社会では陽気に仕事をしていると、「もっと真面目にやれ」などと言われることがあるかもしれません。しかし、陽気で前向きのほうが、脳にはよいのです。

     脳には車と同じようにアクセルとブレーキがあります。仕事に取り組むとき、集中しているとき、脳はアクセルを踏み込んだ状態です。仕事を止めるときや、仕事中に過去の失敗を思い出したりしたとき、脳はブレーキをかけます。

     脳のアクセルとブレーキが調和している状態が理想なのですが、日本の多くの職場は、ネガティブにさせられる要因に満ちています。すると、脳はブレーキをかけっ放しの状態になります。それでも仕事はしなければならない。ブレーキをかけたままアクセルを踏むのでエンストを起こす。走ってものろい。サイドブレーキを引いたまま走っているようなものですから、いろいろなところが疲弊する。前向きでないと、脳はこのような状態になるのです。

    ―― 脳のアクセルとブレーキを上手に調整できるようになるにはどうすればよいのですか。

    岩崎イチロー アクセルを踏むときにはブレーキから足を離す。ブレーキを踏むときにはアクセルから足を離す。このような習慣を身につけることが大切です。

     私たちの研修では、受講者の皆さんに「習慣チェック表」をつけていただきます。このチェック表を使用すると、自分が脳のアクセルとブレーキをどのように使っているのかが見えてきます。

     その結果をもとに、アクセルとブレーキを同時に踏むようなことをしないように、自分の習慣を改善していただきます。

    ―― 会計事務所においても、業務効率を上げたければ、職員がアクセルとブレーキを同時に踏まないようにする環境づくりがポイントになりそうですね。

    岩崎イチロー そのとおりです。職員の皆さんに前向きに仕事をしてもらうことが、業務効率の向上には極めて重要です。そのためには、とくに人間関係をよりよいものにする必要があります。

     米国の某大学で、同学年の医学部生のなかで、数組の既婚者と独身者を比較したところ、良好な結婚生活を送っている学生が感じるストレスは、同じだけの勉強のプレッシャーがあるにもかかわらず、独身者のそれの10分の1程度だったそうです。人間関係がストレスに与える影響はとても大きいのです。

     ストレスは個人的な問題と捉えられがちですが、良好な人間関係が形成されるとストレスが大幅に減る。ストレスが減れば脳は活性化する。つまり、よい人間関係の職場は脳を活性化させるのです。

    ―― よい人間関係をつくるのはとても難しいことです。事務所における人間関係づくりに有効な手法はありませんか。

    岩崎イチロー 「集合知性」という言葉があります。集団というのは個人の集合ですが、集団を構成する個人の協力の結果、集団自体に知性があるかのように見えることを指します。これは最近の脳科学研究でその存在が明らかになった新しい概念です。

     集合知性の効果が顕著に表れているのが、スポーツの団体競技です。メンバー個々の技術力・身体能力では劣っていても、全員が一丸となっているチームのほうが、そうでないチームより強い傾向があります。メンバーの心がひとつになっているチームは、メンバーの人数以上の力を発揮する。スポーツではそういったことが往々にしてあります。そこに作用しているのが集合知性です。

     この集合知性を高められるような状況をつくれば、組織の人間関係をよりよくし、業績向上に結びつけることができます。

     当社では現在、この集合知性を活用した脳力開発トレーニングの指導もしています。これは個人を対象とした能力開発に比べ、数倍の効果を発揮します。社内コミュニケーションを活発化し、組織の活性化を図る。これによって、各人の脳が活性化しやすい環境をつくります。

     

    会計事務所向け研修の成果

     

    ―― 貴社は会計事務所を対象とした研修も行っているそうですが、会計事務所の皆様に対してはどのような印象をお持ちですか。

    岩崎イチロー 会計士さん、税理士さんは非常に専門性が高く、真面目で優秀な方が多いという印象が強いです。ただ、個人プレーになっていて、事務所全体の一体感は薄い感じがします。コミュニケーションが苦手な職員さんも結構おられると聞いています。

    ―― 貴社は、コミュニケーションを苦手とする職員の方などを対象に、「顧問先とのコミュニケーション能力を伸ばす理論と実践セミナー」を開催しています。反響はいかがでしたか。

    岩崎イチロー このセミナーの後、いくつかの会計事務所の所長さんから、顧問先からクレームがくる職員さんたちのコミュニケーション力を改善するにはどうしたらいいかというご相談を受けました。コミュニケーションは脳の使い方の癖が表面化したものなので、コミュニケーション力を上げるには、脳を活性化して、脳の使い方の習慣を変える必要があります。これには、先ほどお話しした集合知性を活用するのが効果的です。そこで、事務所全体の脳力開発トレーニングを行う「出前研修」をご提案し、月に1度の開催で、約半年にわたり実施させていただきました。

    ―― 研修のカリキュラムは、先ほどご説明いただいた内容だったのですか。

    岩崎イチロー そうです。ただ、参加者の仕事内容などを事前にヒアリングしますので、それを参考にカリキュラムをカスタマイズしています。研修の中身は事務所、参加メンバーによって変わりますが、脳活用の理論と、現場での実践トレーニングという2本立てで構成されている点は同じです。

    岩崎クレア 少し補足させていただきますと、実践トレーニングは先ほど夫がお話ししたアウトプットの学習効果を目指しています。

     「習慣チェック表」をつけるのも、アウトプットのひとつです。5分ほどでできる簡単な作業ですが、チェック表を毎日書くこと自体が脳のトレーニングになります。これは長く続けるうちに効果を実感できます。

    ―― その出前研修の成果はいかがでしたか。

    岩崎イチロー アンケートを見る限り、かなりご好評をいただけたようです。例えば、研修では脳を活性化させるためのひとつの習慣として挨拶を挙げていますが、その挨拶ひとつで事務所の雰囲気が変わったといった回答もありました。

     実際、挨拶で脳が活性化されることは科学的にも証明されています。その仕組みを研修では丁寧にご説明します。理屈が分かると、皆さん、積極的に挨拶されるようになるのです。

     これは事前に行った個別ヒアリングで分かったのですが、同じ事務所の所員同士でも、机が隣の人とか、ごく親しい人としか挨拶を交わさない、という人が大半でした。しかも、1日中ほとんど誰とも話さず、黙々と仕事をして帰る。

    これは仕事の特性上、仕方のないことかもしれませんが、脳の活性化という点ではよくありません。

     まずは、そのような職場全体の関係性から改善する必要があります。

    会計事務所はもっと大きな力を発揮できる

     

    ―― 最後になりますが、読者の皆様にメッセージをお願いします。

    岩崎イチロー 会計事務所の皆さんは、個々の脳力は大変高いと思います。ただ仕事の性質上、単独で業務に取り組んでいるため、ほとんどの会計事務所では集合知性が発揮されていません。これはとてももったいないことです。本来なら、もっと大きな力を発揮することができるはずだからです。

     私もかつて話し下手という悩みを抱え、仕事でもプライベートでも、大変苦労しました。しかしそれを克服した今、人生のパートナーも得ることができ、生きがいを感じられるし、仕事でも、自分の力を発揮できているという充実感があります。

     それと同じ体験を皆さんにもしていただきたいという思いがあります。その先に会計事務所の発展、さらに中小企業の活性化があるとしたら、それ以上のことはありません。

    岩崎クレア 日本経済を下支えしている中小企業、その経営者の方たちがもっと元気になるためには、

    まず、会計事務所の皆さんが元気になって、お客様と一緒に明るい未来を描いていかれるようになっ

    ていただきたいと思います。その部分で、私たちが少しでもお役に立てれば、本当にうれしいことです。

     そのような思いで、私たちは研修やコーチングに取り組んでいます。

    ―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。貴社のますますのご発展を祈念しています。

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