贈与税の改正点
2024年1月より、贈与税に関する改正が施行されています。この改正は、贈与税の計算方法や適用される特例において、受贈者にとって重要な変更をもたらす内容です。ここでは、主要な改正である「基礎控除額の創設」「暦年課税と相続時精算課税の選択」「特例措置の導入」の3項目を見ていきましょう。
基礎控除額の創設
2024年1月から相続時精算課税制度を選択した場合、受贈者は年間に受けた贈与財産の合計額から110万円の基礎控除額を控除できるようになりました。これにより、少額の贈与に対しては、贈与税がより緩和される形です。累計贈与額が特別控除額である最大2,500万円を超える場合、超えた部分について20%の税率が適用されるように変更されました。この改正により、贈与税の計算においてより複雑な考慮が必要となるでしょう。この制度の導入により、特に家族間の贈与において税負担の軽減が期待されます。しかし、制度の選択には慎重な検討が必要です。
暦年課税と相続時精算課税の選択
贈与税の課税方法には暦年課税と相続時精算課税があり、贈与者ごとに選択が可能です。この選択は一度行うと、その後は変更できません。相続時精算課税制度を選択した場合、特定の条件下での贈与に対しては贈与税が非課税となる特例が適用されます。これは、特に大きな贈与を計画している場合に有利な選択肢となるでしょう。贈与税の課税方法を選択する際には、将来的な相続計画も考慮に入れなければなりません。この選択によって、贈与と相続の税負担に大きな違いが生じる場合があります。
特例措置の導入
最新の改正では、贈与された土地や建物が災害により被害を受けた場合の特例措置が新設されました。この特例により、被災した不動産の贈与に関しては、被災価額を反映した価額での再計算が可能となります。この特例措置の導入により、災害後の不動産価値の変動を考慮した贈与税の計算が行えるようになり、不公平な税負担の是正が期待されます。具体的な計算方法や適用条件には、注意が必要です。災害による不動産の価値減少を考慮することは、被災者への支援としても意義深い措置です。このような特例措置は、将来的に同様の災害に遭遇した際の税務上の取扱いの指針となるでしょう。特例措置の適用を受けるためには、被災した事実を証明する書類の提出が必要となるため、事前の準備が重要です。被災した不動産の適切な評価と共に、税務申告時の手続きに注意を払う必要があります。
譲渡所得に関する改正
譲渡所得に関しても、重要な税制改正が実施されます。これらの改正は、不動産譲渡の際の税負担に影響を与える要素が顕著です。ここでは主な改正点である「控除額の変更」「空き家特例の延長・拡充」に関して見ていきましょう。
控除額の変更
2024年1月1日以降の譲渡に適用される改正により、相続人が3人以上の場合、1人あたりの控除額が3,000万円から2,000万円に減額されました。これは、相続を通じて家屋を取得した人々が直面する税負担の増加を意味します。この控除額の変更は、多くの相続人がいる場合における譲渡所得税の計算に直接影響します。特に、大規模な不動産を相続する家族にとっては、より大きな財務計画が必要になるかもしれません。控除額の変更により、相続不動産の売却に際しては、事前に税負担を正確に計算し、適切な財務戦略を立てることが重要になります。適用される控除額を理解することで、予期せぬ税金の負担を避けることが可能です。不動産を譲渡する際には、改正された税制の条件を満たしているかどうかを確認する必要があります。特に、相続人が多い家族では、新しい控除額の影響を受ける可能性が高いため、専門家のアドバイスを求めることが賢明です。
空き家特例の延長・拡充
2024年から2027年までの4年間、空き家の譲渡所得から最大3,000万円を控除する空き家特例の延長・拡充が行われます。この改正は、空き家問題に対応し、空き家の有効活用を促進することが目的です。買主が取り壊しや耐震工事を行った場合も、特例の適用対象とする見直しがされることになりました。これにより、空き家の活用と市場への復帰がさらに促されることが期待されます。特例の適用を受けるためには、譲渡の翌年2月15日までに取り壊しや工事を行うことなど、一定の要件を満たさなければなりません。これらの要件を満たすことで、譲渡所得税の負担を軽減できます。空き家特例の改正により、空き家の発生を抑制し、都市の美観と住環境の向上を図ることが可能です。さらに、この特例は空き家の所有者だけでなく、地域社会全体にとってもメリットがあるでしょう。
「最近の資産税をめぐる税制改正等と相続税対策の留意点」はこちら
その他の税制改正
最新の税制改正としては、上に挙げたほかにも「住宅ローン減税の借入限度額調整」など、住宅関連の税制が変更されました。
住宅ローン減税の借入限度額調整
特定の世帯に対する住宅ローン減税の借入限度額の調整が行われました。子育て世帯や若者夫婦世帯は、2023年の限度額が据え置かれ、認定住宅の場合5,000万円、ZEH水準省エネ住宅の場合4,500万円、省エネ基準適合住宅の場合4,000万円となります。これに対して、上記以外の世帯では、認定住宅の借入限度額が4,500万円、ZEH水準省エネ住宅が3,500万円、省エネ基準適合住宅が3,000万円に減額されます。
オンラインセミナー紹介『最近の資産税をめぐる税制改正等と相続税対策の留意点』
実務経営カレッジ プレミアムでは、オンラインセミナー『最近の資産税をめぐる税制改正等と相続税対策の留意点』を配信しています。ここでは、その概要と講師について見ていきましょう。
オンラインセミナーの概要
ここ数年、経済・社会環境の変化を受けて、相続・贈与・譲渡に係る税制の見直しが行われています。相続税等の軽減対策の助言や申告業務を税理士が行う場合には、改正にて見直された内容についての深い理解が求められます。同オンラインセミナーでは、資産税関連の税制改正の最新情報や、重要な裁判例の解説を展開しています。税務申告業務を行う際に考慮すべき留意点および、相続税対策検討時の留意点を、わかりやすい事例を交えながら解説します。
講師について
このオンラインセミナーの講師を務めるのは、税理士法人タクトコンサルティング情報企画部部長で税理士・社会保険労務士・CFP®認定者の肩書を持つ山崎信義氏です。同氏は1990年、同志社大学経済学部卒業後、大和銀行(現りそな銀行)に入行しました。1993年に税理士試験に合格し、2001年にはタクトコンサルティングに入社します。現在、タクトコンサルティング情報企画部部長として、相続、譲渡、事業承継から企業組織再編まで、資産税を機軸とした幅広いコンサルティング業務に携わっています。また、各種セミナーの講師としても活躍中です。
まとめ
税制改正は、資産税に関して、個人の資産運用戦略や企業の財務計画において重要な意味を持ちます。特に、贈与税に関する基礎控除の創設や、暦年課税と相続時精算課税の選択制の導入は、資産移転の計画において新たな選択肢を提供し、柔軟な資産管理を可能にします。また、譲渡所得税における控除額の変更や、空き家特例の延長・拡充は不動産の売却や管理に影響を与え、これらを踏まえた戦略の見直しが求められます。ほかにも、住宅ローン減税の借入限度額の調整は、新たな住宅購入を考える個人にとって重要な変更点です。これらの改正により、税制がより複雑化する可能性があるので、税理士のみなさんはオンラインセミナー『最近の資産税をめぐる税制改正等と相続税対策の留意点』などを活用して学び、顧客に向けての明確な説明や助言に備えておくのが賢明でしょう。