吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第70回 改正民法 定型約款

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 四戸健一

鈴木社長 うーん……。

吉永弁護士 あら鈴木社長、どうかされましたか? 何か考

え込んでいるようですが。

鈴木社長 民法の大改正が近いうちになされるようですが、

どうしたらよいのかと思いまして。

吉永弁護士 ええ、社会経済情勢の変化に対応するために、

時効に関する規定の整備、法定利率を変動させる規定の新

設、保証債務に関する規定の整備、定型約款に関する規定の

新設など、120年ぶりともいわれる民法の大改正が近々行わ

れます。

鈴木社長 いつから改正民法は施行されるのですか?

吉永弁護士 改正民法案は平成29年5月26日に参議院本会議

にて可決成立し、翌月2日に公布されました。そして、改正

民法の附則第1条によると、改正民法は原則として公布の日

から起算して3年を超えない範囲内において、政令で定める

日から施行されることになります。つまり、遅くとも平成32

年6月1日までには改正民法は施行されることになります。

鈴木社長 もう間もなくですね。すぐにでも対策を立てない

とマズイですね。

 私の経営する会社にもいろいろと影響を及ぼしてきそうで

すが、私の会社はネット通販事業もやっているので、改正民

法で新たに導入される「定型約款」という規定が気になりま

す。これについて教えていただけませんか?

吉永弁護士 「定型約款」は改正民法のなかでも非常に重要

な改正のひとつといわれています。

 一般に約款とは、「大量的集団的な取引関係を迅速かつ安全

に処理するために、特定の種類の取引に画一的に適用され、

あらかじめ定型的に定められた契約条項の総体」をいいまし

て、例えば、銀行取引約款などが該当します。

鈴木社長 そういえば、銀行で取引をするとき、細かい字が

びっしり書かれている銀行取引約款をもらったことがありま

す。でも実は、全然読んでいませんでした。それでもこの約

款の規定に法的に従わなければならないのですか?

吉永弁護士 この点については、今までやや曖昧な状況に置

かれていまして、約款の法的拘束力に対する法的根拠が不明

確でした。そこで、改正民法ではこの点を明確化させるため

に、「定型約款」という規定を導入しました。

鈴木社長 なるほど、今まで曖昧な状況にあったのですね。

吉永弁護士 具体的には、改正民法ではまず、「定型取引」と

いう概念が定義されました。そして「定型取引」において、

契約の内容とすることを目的として、特定の者により準備さ

れた条項の総体を、「定型約款」と定義しています。

鈴木社長 難しいですね。

吉永弁護士 そして、定型取引を行うことを合意した者は、

①定型約款を契約内容とする旨の合意をした場合、②定型約

款を準備した者が、あらかじめそれを契約内容とすることを

相手方に表示した場合は、たとえ定型約款の個別条項の内容

を逐一把握していなかったとしても、個別の条項についても

合意をしたものとみなされ、法的拘束力を受けます。

鈴木社長 頭が痛くなりますね。

吉永弁護士 具体的にはネットショッピングのような定型取

引を行うことを合意した場合で、例えば、①ウェブページ上

の利用規約を契約内容とすることに同意する旨のボタンをク

リックした場合、②ウェブページ上に「利用規約が、弊社と

お客様との契約の内容になります」といった一文があらかじ

め表示されていたような場合などが考えられます。

鈴木社長 なるほど、そういうのはよく見かけますね。で

も、改正民法に規定されている条件を満たせば、たとえ利用

規約の内容を逐一把握していなかったとしても、個別の条項

に合意したとみなされてしまうことになると、契約の相手方

が内容を把握していないことに付け込んで、一方的に不利な

条項を紛れ込ませるようなリスクが生じませんか?

吉永弁護士 大丈夫です。改正民法では定型約款の個別条項

のうち、相手方の権利を制限、または義務を加重する条項で

あって、定型取引の態様、実情、取引上の社会通念に照らし

て、信義誠実の原則に反して相手方の利益を一方的に害する

ものは合意をしなかったものとみなす、と規定されていま

す。したがって、このような不当な条項が紛れ込んでいた場

合は、その条項については法的拘束力を受けないことになり

ます。

鈴木社長 なるほど、よく分かりました。私の会社が行って

いるネット通販事業の利用規約を確認してみようと思います。

吉永弁護士 そうですね、ただ、今お話ししたのは定型約款

のごくごく一部にすぎません。定型約款にはほかにもさまざ

まな規定があって、複雑な内容となっています。一度きちん

と勉強をしてから確認したほうがよいでしょう。

【解説】

 「民法の一部を改正する法律案」(以下「改正民法」といいます。)が平成29年5月26日に参議院本会議にて可決成立し、同年6月2日に公布されました。改正民法の附則第1条によると、同法は原則として公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることになります。つまり、遅くとも平成32年6月1日までには改正民法が施行されることになります。

 改正民法の重要な改正点として、「定型約款」という新たな規定が設けられました。

 定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」(改正民法第548条の2第1項)です。

 定型取引とは「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」(同条同項)です。例えば、不特定多数を相手に画一的な処理を行うネットショッピングなどが該当します。一方、労働契約やお互いに交渉力を有する事業者間取引のように、取引相手の個性に着目して契約内容に変更が加えられる可能性の高いものは、その内容が画一的であることが合理的なものとはいえず、定型取引には該当しません。

 そして、「定型取引を行うことに合意した者は、①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときは、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす」(同条同項)と規定されており、たとえ個別の条項の内容を逐一把握していなくても合意したとみなされ、法的拘束を受けます。

 ただし、定型約款の条項のうち、「相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様およびその実情ならびに取引上の社会通念に照らして、第1条第2項に規定する基本原則(執筆者注:信義誠実の原則)に反して、相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす」(同条第2項)と規定されており、いわゆる不当条項については、みなし合意が排除されます。

 このように、定型約款という制度が新たに導入されますが、約款を利用している事業者の方は、民法改正を踏まえて、利用している約款がそもそも「定型約款」に該当するか、みなし合意は成立するか、などを検討することをお勧めします。なお、定型約款は複雑な規定となっており、ほかにもさまざまな規定がありますので、弁護士などの専門家と相談しながら検討されることをお勧めします。