吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第68回 「消化仕入」が違法になる場合があります!

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則

鈴木社長 先生、私の知り合いが調理器具を販売するA社と

いう会社を運営しているのですが、その会社の在庫管理の方

法が少し変わっているんですよ。

吉永弁護士 どう変わっているのですか。

鈴木社長 A社は、製造元との間で、①A社は納入を受けた時

点ではその商品を仕入として扱わず、その後、A社が一般消

費者に販売した時点をもって仕入として扱うこと、②代金の

支払いは仕入から60日後とすること、をそれぞれ合意してい

るようです。一般的に代金の支払いは仕入後に行われますか

ら、仕入の時期を遅らせたぶん、代金支払いの時期も遅らせ

ることができるようです。

吉永弁護士 代金支払いの時期が遅くなれば、その間に取引

先から代金を回収するなどして支払代金を工面することもで

きますから、A社にとっては製造元に対する支払いが容易に

なりますね。また、一般消費者への販売と製造元からの仕入

が同時に行われますから、A社は不良在庫を抱える心配がな

いといえます。

鈴木社長 そうなんです。私の会社も美術工芸品を扱ってい

ますから、製造元から仕入れる原材料について同じような方

法で原材料の在庫管理ができないかと考えているんです。

吉永弁護士 確かに、小売業界では、このような在庫管理の

方法は「消化仕入」として行われることがありますね。でも

社長、製造元との間でこのような在庫管理を行うことは、下

請代金支払遅延等防止法という法律に違反している可能性が

とても高いのです。

鈴木社長 そうなんですか。

吉永弁護士 はい。A社が一般消費者に販売した時点をもっ

てその商品の仕入として扱い、代金の支払いをそれから60日

後としている点が問題ですね。一般消費者にいつその商品が

売れるのか分からない以上、A社は代金の支払期日を定めた

とはいえません。支払期日が定められていない場合には、納

入した商品の代金は、納入した日に支払わなければならなく

なります。

鈴木社長 商品が納入された日にその代金を支払わなければ

ならないというのはかなり意外な結果ですね。

吉永弁護士 そうなんです。そのため、A社は、商品が納入

されるたびに代金の支払いを遅延させているといえますか

ら、製造元に対しては商品代金の年6%あるいは年14.6%に

あたる遅延損害金を支払わなければならないのです。

鈴木社長 製造元との間で消化仕入を行うことは法的には問

題なんですね。

吉永弁護士 はい。ただ、A社と製造元の資本金の額によっ

ては、そもそもこの下請代金支払遅延等防止法の適用がな

く、このような在庫管理の方法も適法になる余地もあるの

で、この点は注意してください。

鈴木社長 分かりました。よい機会ですので、先生には私の

会社と取引先との取引方法がこの法律に違反していないか確

認をお願いします。

【解説】

 下請代金支払遅延等防止法(以下「法」といいます。)は、委託取引を行う2つの会社の資本金の額が一定の要件を満たす場合に適用されます(法2条7項、8項)。例えば、製造を委託する会社の資本金の額が3億円を超え、製造を受託する会社の資本金が3億円以下である場合には、この法律の適用があります。そして、製造を委託する資本金の額が大きいほうの会社を親事業者、製造を受託する資本金の額が小さいほうの会社を下請事業者といいます。このように、以下で説明するような法の規制は委託取引を行う一定の会社間にしか及びませんから、この点は注意が必要です。

 親事業者は、代金の支払期日として、物品等を受領(じゅりょう)した日から60日以内の日を特定する必要があり(法2条の2第1項)、この支払期日を定めなかった場合には、物品等を受領した日が支払期日となります(法2条の2第2項)。この支払期日に代金を支払わないことは、支払遅延の禁止という法の規定に反しますし(法4条1項2号)、物品等を受領した日から60日を経過するまでは年6%の遅延損害金(商法514条)、60日経過後からは年14.6%の遅延損害金の支払いが求められることになります(法4条の2)。

 親事業者が下請事業者との間で、親事業者は納入を受けた時点ではその物品などを仕入として扱わず、その後、親事業者が一般消費者に販売した時点をもって仕入として扱うことを合意したとしても、それが一般消費者にいつ売れるか不明である以上、支払期日を定めたとはいえません。したがって、親事業者が下請事業者から物品等の納入を受けた日がその支払期日となります。親事業者は、納入日に物品等の代金を支払わない限り、支払遅延の禁止という法の規定に反しますし、遅延損害金も発生することになります。