吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第65回 わが社も株券発行会社!?

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 末長 祐

吉永弁護士 山縣社長、古希おめでとうございます。

山縣社長 吉永先生、ありがとう! あたた……。

吉永弁護士 どうされたのですか?

山縣社長 先週ゴルフをやったときに、ちょっと腰を痛めて

しまってのう……。

吉永弁護士 だ、大丈夫ですか? お大事になさってください。

山縣社長 最近は体力の衰えも感じるし、年は取りたくない

もんじゃ……。そろそろ、事業承継とやらを考えねばならん

かもしれんのう。

吉永弁護士 社長は日頃からさまざまな分野でチャレンジし

ていらっしゃいますし、まだまだお若いですよ。ただ、事業

承継は、中小企業の社長の皆様が直面する問題ですね。

山縣社長 税金の問題もかかわるし、難しい問題じゃな。し

て、事業承継はどのように進んでいくのじゃ?

吉永弁護士 社長は、ご長男の祐一様を次期後継者に決めて

いらっしゃいますよね。ですから、事業承継では、税務上の

問題点も視野に入れながら、社長が保有する株式などをどの

ようにご長男に譲渡していくのか、といった点を検討してい

くことになります。

山縣社長 株式を息子に譲るんじゃな。どのようにすればよ

いのじゃ?

吉永弁護士 まずは、議論を会社法の話に絞りましょう。御

社は株券発行会社ですか?

山縣社長 ウチの会社は、株券発行会社ではないのではない

かのう。これまで一度も株券を発行したことはないから……。

吉永弁護士 社長、実は、株券を一度も発行したことがない

会社でも、株券発行会社である場合があるのです。

山縣社長 え!?

吉永弁護士 社長の会社は、今年、創業50年を迎えられます

よね? 現在の定款を拝見してもよろしいですか?

山縣社長 えーっと、どこにあったかのう……。おお、これ

じゃ。

吉永弁護士 ありがとうございます。……定款に、株券を発

行しない旨の規定がありませんね。会社法制定前から存在し

ていた御社は、株券発行会社であるとみなされることになり

ます。

山縣社長 ほう。自分のつくった会社のことなのに、全く知

らんかったわい。

吉永弁護士 そう仰る社長様は少なくありません。そのた

め、株券発行会社であるのに、株券発行のための手続きを一

度もしたことがない、という会社も少なくないのです。た

だ、御社は非公開会社ですので、株券を発行していないこと

自体が特に問題になることはありません。

山縣社長 それはよかった。

吉永弁護士 では、これまで、御社の株主が誰かに株式を譲

渡したことはございますか?

山縣社長 おそらくないと思うんじゃが……。

吉永弁護士 それならよかったです。株券をいまだ発行して

いない場合、原則として、株式譲渡は会社との関係で効力を

生じません。有力な見解によれば、当事者間の譲渡も無効に

なるとされています。

山縣社長 ということは、ワシが息子に株式を譲り渡すため

には、株券を発行する必要があるということかの……?

吉永弁護士 そのとおりです。譲渡人が譲受人に対して株券

の交付を行わなければ、株式譲渡が無効となってしまうおそ

れがあるからです。

山縣社長 なんだか面倒くさいのう……。

吉永弁護士 そうですね。この機会に定款変更をして、株券

不発行会社へ移行してもよいかもしれません。定款変更は、

株主総会の特別決議を経れば行うことができますから。

山縣社長 そんな方法もあるんじゃな! やはり、難しいこと

は専門家に相談するのがベストじゃ。

 ……ところで吉永先生、最近、書類を見るとき、以前より

顔を離しておらんか?

吉永弁護士 ええ、実はそうなんです。疲れ目かもしれませ

ん。

山縣社長 それは、老眼の症状じゃよ。

吉永弁護士 いえ、決してそんなことは……!

山縣社長 吉永先生も、近いうちに事業承継を考え始めたほ

うがよいかもしれんのう。

【解説】

 株式につき株券を発行する旨を定款で定めた会社を、株券発行会社といいます(会社法117条7項)。もっとも、会社法施行時(平成18年5月1日)に存続していた株式会社は、定款に株券不発行の定めがなければ、株券を発行する旨の定款の定めがあるものとみなされます(会社法整備法76条4項)。このため、歴史のある会社が、株券発行会社のままとなっていることも少なくありません。もっとも、非公開会社の場合は、株主の請求がない限り株券を発行しなくてもよいとされています(会社法215条4項)。

 では、株券発行会社において株券発行前に株式譲渡をした場合、その効力はどのようになるのでしょうか。まず、会社法は、株券の発行前にした譲渡は、会社との関係で効力を生じないと定めています(同128条2項)。加えて、株券の発行前に行った株式の譲渡は、当事者間でも効力を生じないとする見解が有力です。

 株券発行会社であるのに実際には株券が発行されていない場合、株主は、会社に対して株券発行請求を行う必要があります。株式譲渡を行った後に、特に株券を所持し続ける必要がないのであれば、株主は、株券不所持の申し出をすることもできます(同217条1項)。

 なお、株式譲渡を行う際には、株主名簿の名義書換手続(同130条、133条1項)や譲渡承認手続(同136条~)にも留意が必要です。