吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第61回 会社の経営権争い時の

     取締役会議事録閲覧請求権について

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 四戸健一

武田社長 うーん…。

吉永弁護士 あら、武田社長どうかされましたか? 何か考え

込んでいらっしゃるようですが。

武田社長 私の知り合いの中小企業を経営する小林社長が株

主の対応について悩んでいるようなんです。

吉永弁護士 確か、小林社長は、まだ60代と若く、「あと20年は第一線で会社経営に頑張るぞ」とか、仰っていましたね。

 ところで、その株主さんはどんな方ですか?

武田社長 その株主のX氏は、小林社長の親族で、かなりの

数の株式を保有しています。そして、小林社長の地位を狙っ

ているのか、何かと小林社長に冷たく、小林社長のあら探し

的なことばかりしています。

吉永弁護士 そうですか、小林社長は非常に真面目な方なの

に大変ですね。それでX氏は株主として何を求めているので

すか?

武田社長 X氏は、過去に小林社長が小林社長の会社と行っ

た取引について、違法性がないかを検討するために、取締役

会の議事録の閲覧を請求しています。X氏の要求通りに閲覧

をさせなければならないのでしょうか?

吉永弁護士 それは小林社長の会社に、どのような機関が設

置され、それらに、どのような権限が与えられているかによ

りますね。小林社長の会社については詳しいですか?

武田社長 ええ、重要な取引先ですから。

吉永弁護士 では、具体的に確認しますが、小林社長の会社

には監査役が設置されていますか?

武田社長 はい、設置されています。

吉永弁護士 その監査役には業務監査権限も与えられていま

すか?

武田社長 いえ、それはないです。会社の定款で監査役の監

査の範囲は会計に関するものに限定されているようです。

吉永弁護士 なるほど、それは困りましたね。

武田社長 え、何か問題でもありますか?

吉永弁護士 もし、その監査役に業務監査権限があれば、株

主が取締役会の議事録を閲覧するには裁判所の許可が必要に

なります。裁判所の許可を得るにはそれなりにコストと時間

がかかりますので、株主の権利の行使に対してある程度の歯

止めになります。

武田社長 では、監査役に業務監査権限がない場合はどうな

るのですか?

吉永弁護士 会社法上、株主が株主としての権利を行使する

ため必要があれば、株式会社の営業時間内はいつでも、取締

役会議事録の閲覧または謄写が可能となります。

武田社長 なるほど、そうなると、裁判所の許可を求める必

要がないので、X氏は株主としての権利行使にかこつけて、

いくらでも議事録閲覧請求権を行使して、徹底的に小林社長

のあら探しをしてくる恐れがありますね。

吉永弁護士 そうです。これは小林社長にとっては非常に不

利な状況になります。

武田社長 確かに、会社の経営権争いをしている株主から、

株主権の行使をむやみやたらにされては小林社長も大変です

ね。

 これが可能なのは、小林社長の会社の定款に「当会社の監

査役の監査の範囲は、会計に関するものに限る」という定め

があるためのようですが、この規定はないほうがよいかもし

れないですね。どうすれば、この規定を削除することができ

るでしょうか?

吉永弁護士 定款変更手続きを行うことで、その規定を削除

すればいいのです。

武田社長 どうすれば、定款変更ができますか?

吉永弁護士 定款変更をするには株主総会の特別決議が必要

になります。そのためには、原則として議決権を行使するこ

とができる株主の議決権の過半数を有する株主が株主総会に

出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成票を得る

必要がありますが、大丈夫ですか?

武田社長 それは、微妙ですね、確認してみます。

吉永弁護士 それと、たしかにX氏対策の手段として上記規

定を削除することが考えられますが、これにより業務監査権

限が新たに監査役に生じるなど会社経営の仕組みが変わるこ

とになります。そのため、定款変更を行うにあたっては、監

査役適任者の選定も含めて総合的に検討するのが望ましいと

お伝えください。

武田社長 分かりました。

【解説】

 公開会社でない株式会社(株式会社のうち、その発行する株式の全部の株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けている会社をいいます(会社法2条5号参照))は、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができます(会社法389条1項)。

 この定款規程を置く株式会社は、会社法上の監査役設置会社(会社法2条9号)には該当せず、監査役の権限は縮減される一方、株主の権限は強化されます。

 例えば、株主は裁判所の許可を要することなく、その権利を行使するため必要があるときは、株式会社の営業時間内は、いつでも、取締役会議事録の閲覧請求をすることができます(会社法371条2項)。しかし、これは場合によっては、濫用的な株主権行使のリスクを生じさせる原因にもなります。

 このリスクが強く感じられる会社経営者の方は、定款変更手続きで、「監査役の監査の範囲は、会計に関するものに限る」という規定を削除し、監査役の権限を強化してみるのも、考慮に値するかもしれません。

 なお、定款変更には、会社法上、株主総会の特別決議が必要で、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければなりません(会社法309条2項)。