吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第57回 インターネット上における誹謗中傷

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 鵜飼剛充

吉永弁護士 小野社長、こんにちは。最近どうですか?

小野社長 おかげさまで、順調に売上が伸びてきていて、願

ったりかなったりですよ! はっはっは!

吉永弁護士 それは何よりですね。それじゃあ、最近、特に

お困りになられているようなこともなさそうですね。

小野社長 それがそういうわけにもいかなくて……。

吉永弁護士 どうなされたのですか?

小野社長 以前、残業時間が多すぎるということで先生にご

相談に乗っていただきましたよね(2016年4月号)? それが

どこから漏れたのか分かりませんが、インターネットでもの

すごくたたかれまして、ブラック企業などと言われて……。

吉永弁護士 それはそうですよ! 月に160時間も残業されて

いた方がいたのですから!

小野社長 いやぁ、その節は大変お世話になりました……。

ただ、今回はそれだけではないのです。

吉永弁護士 他にもあるのですか?

小野社長 それはもうひどいもので……。

 例えば、アプリやゲームの動作不良がひどいとか、アプリ

やゲームそのものがパクリだとか、揚げ句の果てには、うち

の会社が暴力団とつながっているとか、私が新興宗教にはま

っているなどといった、根も葉もないことが書き込まれてい

るのです! ひどいものですよ!!

吉永弁護士 まあまあ、お気持ちは分かりますが、落ち着い

てください。

小野社長 そうですね、すみません……。

吉永弁護士 実際に取引先からクレームがあるなどのトラブ

ルは起こっていないのですか?

小野社長 アプリやゲームの開発をしている以上、全てのバ

グを最初から排除することはそもそも不可能ですから、たま

に動作不良が起こるのを直してほしいと取引先に言われるこ

とはあります。けれども、そういった指摘を受けるたびにす

ぐに対応して直していますし、仕様書に従ってアプリやゲー

ムを開発して、基本動作確認などの検収を経て納品していま

すので、取引先とトラブルを起こしたこともありません。

 また、開発者としてパクリだと言われないよう十分に気を

付けて製品開発をしていますし、他の書き込みについても全

て事実無根なのです!

吉永弁護士 インターネットは便利ですけど、インターネッ

ト上の書き込みが拡散してしまうと、会社の評判も落ちてし

まいますし、困ったものですね。

小野社長 本当にその通りです。どうにかなりませんか?

吉永弁護士 インターネット上での誹謗中傷に対する対処と

しては、大まかに分けて、1.掲示板等の管理者に書き込み等

の削除請求をすること、2.名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪

等の刑事上の責任を追及するために被害届や告訴状の提出を

すること、3.書き込み等を行った人に対して民法上の不法行

為に基づく損害賠償請求をすることなどがあります。

 1.については、書き込み等をした者が誰かということを突

き止めなくても、掲示板等の管理者宛てに任意の削除要請を

行うこともできる点で、その多くを容易に行うことができま

すが、あくまで任意ですので応じてくれない場合もありま

す。

 また、一度書き込まれてしまうと、情報の拡散も早いです

し、削除されたとしても、再度書き込みをされてしまうこと

もあるため、これらの点に注意する必要があります。

 3.については、まずは書き込み等をした者を突き止めるこ

とから始めることとなります。

小野社長 書き込み等をした人を特定するのは、大変ではあ

りませんか?

吉永弁護士 そうですね。いわゆるプロバイダ責任制限法

第4条に基づく発信者情報開示請求として、掲示板等の管理者

にIPアドレスの開示を、プロバイダにIPアドレスから判明す

る発信者情報の開示を裁判外でも求めることができますが、

これらの事業者が開示請求に応じない場合には、裁判におい

て開示を求めることとなります。

 ただ、現行法では、掲示板等の管理者やプロバイダに通信

記録の保管義務が課せられておらず、3カ月程度で通信記録自

体が消去されることも多いので、迅速に発信者情報開示の手

続きを終わらせる必要があります。

小野社長 誹謗中傷の書き込み等を見つけたらすぐに管理者

に通報して、書き込んだ人を特定すべきですね!

【解説】

⒈プロバイダ責任制限法第4条に基づく開示請求

 特定電気通信役務提供者の賠償責任の制限及び発信者情報開示に関する法律(いわゆるプロバイダ

責任制限法)第4条に基づいて、特定電気通信役務提供者(掲示板等の管理者やプロバイダ等)に対

して発信者情報(書き込み等をした者のIPアドレス、氏名、住所、メールアドレス等)開示請求をす

ることができますが、あくまで任意の手段であり、プライバシー保護や電気通信事業法上の守秘義務

などを理由に、裁判外での開示請求には一切応じないプロバイダ等が多いのが実情です。

 

⒉裁判上の請求

 上記1で述べた通り、プロバイダ等は任意の開示に応じることがさほど多くないため、裁判上で開

示請求をすることも少なくありませんが、この場合、3カ月程度で通信記録自体を消去されることも

多いため、仮処分等を用いて短期間で発信者情報開示に関する全ての手続きを終了させる必要があり

ます。

 具体的には、⑴掲示板等の管理者に対し、発信者情報(IPアドレス)開示仮処分命令の申し立てを行い、開示決定を受ける、⑵ IPアドレスの開示、⑶ IPアドレスからプロバイダを特定し、プロバイダに対し、発信者情報(住所、氏名等)の開示請求訴訟を提起し、認容判決を受ける、⑷住所、氏名等の開示を受ける、という方法が一般的です。場合によっては、証拠保全手続(民事訴訟法234条以下)を用いて、事前に発信者情報の消去を防止することも有効です。