吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第54回 あなたの知らない利益相反

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 町田 覚

吉永弁護士 ここ数年、御社は業績が右肩上がりで素晴らし

いですね。野田社長の手腕ですね。野田社長は、いつからこ

ちらの代表取締役社長に就任されたのですか。

野田社長 4年前の6月からです。

吉永弁護士 それまでは、どちらにいらっしゃったのでしょ

うか。

野田社長 ゼネコンの取締役をしておりました。

吉永弁護士 そうすると、御社との関係では下請け、元請け

の関係といったところでしょうか。

野田社長 そうなります。就任したての頃は、同じような業

界とはいえ、勝手がわからず、苦労しました。でも、一昨年

ぐらいからは、仕事にもだいぶ慣れてきまして、時間に余裕

ができました。空いた時間にスポーツジムに行ったり、映画

に行ったり。

吉永弁護士 業績は一昨年あたりから、急激に伸びています

ね。野田社長、やっぱり相当なやり手なんですね。

野田社長 そんなことはありませんよ、ハッハッハ。今まで

いろいろな赤字会社に行っては、すべて数年で立て直してき

ましたけどね、ハッハッハ。

 最近では、ジムや映画に行っても時間が余ってしまって、

それに何か刺激がほしいと思ったもので、大きな声では言え

ませんが、去年、自分で会社をつくっちゃいました、ハッハ

ッハ。しかも、利益もしっかり上がっちゃってます、ハッハ

ッハ。

吉永弁護士 え、他の会社も経営されているのですか。こち

らの会社での業務への影響はないのですか。

野田社長 あくまで余った時間をあてているだけですので。

吉永弁護士 ……そ、そうですか。ちなみに設立された会社

は、どのような会社なのですか。

野田社長 会社といっても小さな工務店ですよ。

吉永弁護士 念のため伺いますが、御社との取引があったり

しませんか。

野田社長 まだしていませんが、これからしようと思ってい

ます。ただ工務店の一取引先にすぎませんし、取引金額も通

常の範囲内にする予定ですから、問題ないと思ってますけど。

吉永弁護士 いえ、それでも御社と工務店の両方で代表取締

役を務められている以上、両方の会社での取締役会での承認

は手続き上必要になります。それをしないと……。

野田社長 ちょっと待ってください。先生が仰りたいのは、

利益相反取引の話ですよね? 私がいつ工務店の代表取締役

になったと言いました?

吉永弁護士 え、どういうことですか?

野田社長 私は会社を設立しただけです。役員でも、従業員

でもありません。

吉永弁護士 そういうことですか。

野田社長 そうです。私、ちょっとだけ法律をかじったこと

があるんで、ハッハッハ。まあ、工務店の役員は私の知り合

いだけですし、私の指示のもと、仕事はしてますがね、ハッ

ハッハ。

吉永弁護士 その工務店の株主は誰ですか。

野田社長 私だけです。

吉永弁護士 それはやっぱり、問題があるかもしれませんね。

野田社長 どうしてですか? 利益相反取引にはならないじ

ゃないですか。

吉永弁護士 確かに、形式上は利益相反取引にはあたりませ

ん。しかし、実質的に工務店は野田社長の指示どおりに仕事

をするということですよね。しかも、100%出資している。

野田社長 それはそうですけど。

吉永弁護士 そうすると、実質的に野田社長自身が取引相手

になるのと同じですので、利益相反取引の規制がかかってき

ます。実際に、そのように判断された裁判例もあります。

野田社長 当社と工務店の取引が利益相反取引とされ、承認

決議を経ていないと、どうなってしまうのですか。

吉永弁護士 会社から損害賠償請求を受ける可能性がありま

す。

野田社長 そうですか。そうなるのでしたら、承認決議を経

ます。

吉永弁護士 承認決議を経ていても、取引の結果、会社に損

害を被らせていたということになれば、やはり損害賠償責任

を問われます。

野田社長 よほど気を付けて取引をしないとだめですね。

吉永弁護士 あと、損害賠償責任とは別に、取締役解任の正

当理由にもなりえますので、取締役を解任される可能性もあ

ります。

野田社長 えー、それはダメです。そんなリスクは冒せませ

ん。まだ、工務店の利益はそこまで大きくないし、ローンも

残ってるし……、やめておきます。

【解説】

●利益相反取引

 利益相反取引とは取締役が自己または第三者のために会社とする取引、会社と取締役との利益が相反する取引をいう。会社の利益を犠牲に取締役が自己、又は第三者の利益を図ることを防止するために、利益相反取引については株主総会や取締役会の承認等の手続きが課されている(利益相反取引の解説は第41回の解説を参照)。

●名古屋地判昭58・2・18判時1079号99頁

 当裁判例は以下のとおり、A会社の代表取締役(被告)が全株を保有する別会社であるB会社との間で行った取引を利益相反取引と判断した。

 「被告は既にB会社の全株式を保有しており、代表者こそCであったものの、B会社の営業上の損益からくる経済上の結果はそのまま株主である被告個人に直結する関係にあったのであるから、被告は自己の計算においてA会社と丸棒の取引をしたものと評価すべく、従って、両会社の右期間の取引もやはり商法265条(会社法356条)の自己取引に該当すると解すべきである。」