吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第53回 事業承継時の使用人兼務役員の

処遇について

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 四戸健一

鈴木社長 うーん……。

吉永弁護士 あら、鈴木社長どうされましたか? 何か考え

込んでいるようですが。

鈴木社長 私の知り合いの高木社長が事業承継について悩ん

でいるようなんです。

吉永弁護士 確か高木社長は60代のはずで、まだまだお若い

ですよね。

鈴木社長 それが、彼、この前、体を壊して1カ月間ほど入院

をしてしまい、そろそろ限界を感じているようで……。

吉永弁護士 社長のお子さんは後を継いでくれないのです

か?

鈴木社長 息子さんがいらっしゃるのですが、会社には全然

興味がなくて、後を継ぎそうにないようです。かといって、

会社をつぶすとなると、今まで会社を支えてくれた何十人も

の従業員を路頭に迷わせることになってしまうので、とても

そんなことはできないと仰っていました。

吉永弁護士 では、高木社長はどうやって会社を存続させよ

うとお考えになっているのでしょうか?

鈴木社長 親族にも社内にも会社の後継者となりそうな人材

がいないので、保有する全株式を第三者に譲渡することで会

社経営を第三者に引き継いでもらおうと考えているようです。

吉永弁護士 それで、株式の売却先は見つけられたのです

か?

鈴木社長 あくまでも候補ですが、同業他社のS商事です。

会社経営をしっかりと引き継いでくれそうなので、そこにし

ようと思っているようですよ。

吉永弁護士 それはよかったですね。でも、何か問題でも?

鈴木社長 それが、S商事は会社を買収した場合、今の会社

の役員には辞めてもらいたいと言ってきたそうなんです。

吉永弁護士 なるほど、旧経営陣の影響力を排除したいので

すね。よくある話です。役員はどういった方ですか?

鈴木社長 役員は、高木社長と社長の奥様、それに営業部長

を兼務しているWさんの3名です。

吉永弁護士 みなさん、会社を辞めることについては特に問

題はないのですか?

鈴木社長 社長と社長の奥様が辞めるのは何の問題もないよ

うですが、Wさんは辞めたくないと言っているそうです。彼

はまだまだ妻子を養う立場で、年齢も50代と高く、ここを辞

めたら他に行くところがないのです。何とかならないでしょ

うか?

吉永弁護士 そうですね……、Wさんは使用人兼務役員に当

たりますので、役員としての地位と従業員としての地位の2つを持っていることになります。

鈴木社長 なるほど。では、Wさんのその2つの地位を維持す

ることは可能なんでしょうか?

吉永弁護士 役員としての地位は、たとえ正当な理由がなく

ても株主総会の解任決議によって失わせることが可能です。

また、たとえ解任されなかったとしても、任期が満了した後

に再任されなければ役員としての地位は失われます。これに

関しては、避けることはできません。

鈴木社長 そうですか。では、従業員としての地位はどうな

んでしょうか?

吉永弁護士 従業員としての地位は、労働基準法や労働契約

法などにより保護されています。例えば、解雇をする場合は

客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要とされて

います。

鈴木社長 それなら、Wさんは従業員としてならば会社に残

ることは可能なようですね。

吉永弁護士 そうですね、Wさんを正当な理由なく一方的に

解雇することは法的に認められませんので、一従業員として

新たな経営者のもとで忠実に職務に励んでいれば大丈夫だと

思います。

鈴木社長 彼は大変真面目で誠実な方だと伺っています。そ

れを聞いて安心しました。

【解説】

 使用人兼務役員は役員としての地位と従業員としての地位を有していますので、当該使用人兼務役員を解雇する場合は、それぞれの立場から検討する必要があります。

 役員としての地位に関して、会社法上、株主総会に選解任権があり、たとえ正当な理由がなくても、いつでも株主総会の決議によって解任することができます(会社法339条)。このように会社法は株主総会に対して役員人事権をかなり自由に認めているといえますので、本事案のように100%の株式

を保有する株主が新たに出現する場合、その者の意向に従って役員人事が決定されざるを得ないことになります。ただし、正当な理由なく役員を解任された場合は、会社に対して損害賠償を請求することは可能です(会社法339条2項)。

 次に、従業員としての地位に関しては、労働契約法16条において、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されており、労働者は会社役員と異なり、容易には解雇することができないようになっています。

 このように、使用人兼務役員は役員と従業員の二面性を有しており、さまざまな点で異なる扱いを受けますので、両側面から検討する必要があります。

Copyright (C) 2012-2017 Business Management Service All Rights Reserved.