吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第47回 普通の建物賃貸借契約でも

    中途解約できない場合がある!?

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 丸山純平

鈴木社長 吉永先生、本日もアドバイスをしていただきあり

がとうございました。先生のおかげで、今後もインターネッ

ト販売を順調に継続させていけそうです。

 ところで、先生、新たにご相談したい件があるのですが、

お時間はいかがですか。

吉永弁護士 ええ、大丈夫ですよ。

鈴木社長 それで、内容は、当社の美術工芸品販売の件とは

違う、不動産に関する件なのですが、先生にご相談してもよ

ろしいのでしょうか。

吉永弁護士 もちろん大丈夫です。私は不動産に関する案件

も扱っているので、安心してくださいね。

鈴木社長 ああ、よかった。実はとても困っているのです。

吉永弁護士 どうされたのですか。

鈴木社長 当社は大阪に営業所があるのですが、実はその営

業所の入っているのが、私の父が購入した3階建てのビルなの

です。

吉永弁護士 ああ、そうなのですね。

鈴木社長 それで、そのビルはまだ父の所有なのですけど、2

階と3階を当社が大阪営業所として使用していて、1階は宅配

便を扱う配送会社さんに貸しているのです。

吉永弁護士 なるほど。

鈴木社長 実は、当社もおかげさまで業績好調で、そのビル

の1階を美術品の展示スペースにして、当社が扱っている美術

工芸品を顧客の皆様に直接お見せしたいと思っているのです。

吉永弁護士 たしかに、取り扱っている商品をお客さんにお

見せできるのは、よい商機になりますね。

鈴木社長 そうなのです。美術品って、ぱっと見ただけでは

価値が分かってもらえませんからね。価値を分かってもらう

ために、お客様には直接見て触れてほしいと思うのです。そ

うすれば、納得して購入していただけるのではないかと思っ

て。

吉永弁護士 よいお考えだと思いますよ。

鈴木社長 それで問題になったのが、1階の配送会社さんなの

です。先日、出て行ってもらいたいと思って、契約の解約を

お願いに行ったら、「解約は困る。まだ、契約期間中だし、業

績好調でここの拠点がどうしても必要だから、解約には応じ

られない」と言うのです。

吉永弁護士 なるほど。ところで、その配送会社さんとの建

物賃貸借契約書はお手元にありますか。

鈴木社長 はい。これです。

吉永弁護士 拝見しますね。ふむふむ、定期建物賃貸借契約

ではなく、いわゆる普通建物賃貸借契約を締結しています

ね。あと、契約期間中の解約の条項がないですね。

鈴木社長 そうなのです。でも、法律によれば途中解約でき

るのでしょう? このあいだ、念のために法律を見たら、貸主

から借主に6カ月前までに申し入れれば、建物賃貸借契約は終

了すると書いてありました。

吉永弁護士 はい、でもこの契約では貸主からは解約できな

いのです。

鈴木社長 えっ、法律で定められているのに、解約できない

のですか?

吉永弁護士 はい。この契約では借主が同意しない限り、貸

主からの一方的な解約は無理なのです。

鈴木社長 訳が分かりません。なぜなのですか?

吉永弁護士 たしかに、鈴木社長の仰る通り、今回のご相談

内容が関係する法律である借地借家法には、途中解約の規定

があります。でも、その規定は原則として、「期間の定めのな

い建物賃貸借」に適用されるのです。

鈴木社長 はい。たしかにこの契約は、去年の10月に2年契約

で結んだものです。

吉永弁護士 そうなのです。契約書の冒頭を見てください。

契約開始日が平成26年10月1日、契約終了日が平成28年9月30日になっています。つまり、この契約は2年契約、すなわち

「期間の定めのある建物賃貸借」になるのです。そして、借

地借家法第27条に、「解約による建物賃貸借の終了」という規定があります。

鈴木社長 そこまでは分かります。

吉永弁護士 一方、民法618条では、当事者が賃貸借の期間を

定めた場合であっても、期間内の解約をする権利を留保した

ときは契約期間中であっても解約できると規定しています。

これを「解約権留保特約」といいます。

鈴木社長 なるほど、それはどういうことなのですか。

吉永弁護士 はい。解約権留保特約があるということは、逆

をいえば、貸主と借主の間で契約期間中に解約できる特約を

結んでいなければ、契約期間中の解約申し入れはできないこ

とになるのです。

 ですから、先ほどの借地借家法第27条は、原則として「期

間の定めのない建物賃貸借」に適用され、契約で解約権留保

特約を盛り込んでいる場合、「期間の定めのある建物賃貸借」

に適用される余地がある、ということになります。

鈴木社長 えっ、そうなのですか……。そうすると、契約が

終わる平成28年9月30日までは、貸主からは解約できないということなのですね。

吉永弁護士 そうなのです。ちなみに、平成28年9月30日に解約したい場合には、6カ月前、すなわち平成28年3月30日までに解約申し入れをする必要があります。なお、その解約申し

入れには、正当事由要件が必要になるのですが、この要件は

少し慎重に検討していきましょう。

鈴木社長 よく分かりました。身内の建物なのに、自由には

いかないものなのですね……。先生、引き続きよろしくお願

いします。

吉永弁護士 承知いたしました。お任せください。

【解説】

借地借家法では、いわゆる普通建物賃貸借について、「建物の賃貸人が賃貸借の解約の申し入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申し入れの日から6月を経過することによって終了する」と定められています(同法第27条)。これは民法第617条の特則として、契約期間を定めなかった場合の建物賃貸借について、賃貸人からの解約申し入れによって建物賃貸借を終了させる場合の解約申し入れ期間を、民法上の3カ月という規定を6カ月に伸長するものです。

 そして、契約期間を定めた場合の建物賃貸借については、当事者の一方が契約期間内に解約する権利を留保しているときは、解約申し入れによって終了する賃貸借となり、民法第617条の規定を準用する結果(民法第618条)、借地借家法第27条の規定が適用されます。

 したがって、期間の定めのある建物賃貸借では契約などで、契約期間中に解約できる旨の条項を設けていない限り、契約期間中であっても解約できないということになります。

 なお、期間の定めのある建物賃貸借の契約において、当事者間で中途解約条項の特約を設けたうえで、「貸主」からの解約申し入れ期間を3カ月前にするなど、借地借家法で規定する6カ月前よりも短い期間にするケースが見受けられますが、かかる特約は「賃借人(借主)に不利なもの」として無効になる点に注意が必要です(借地借家法第30条)。

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