吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第46回 意外と知らない下請法

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 宇治 圭

吉永弁護士 山縣社長、お久しぶりでございます。その後、

お変わりありませんか?

山縣社長 おかげさまで。ただ、そろそろわしも歳じゃし、

息子の祐一にわが社の後を継がせようと思っておるのじゃ。

そこで今、息子を当社の従業員として働かせて、いろいろと

勉強をさせているところなのじゃよ。

吉永弁護士 まぁ、それは将来が楽しみですね。ご子息の様

子はいかがですか?

山縣社長 うむ。わが息子ながら、なかなかのものでのう。

ご存じのとおり、わが社は不動産賃貸業・管理業を営んでお

るが、マンションのオーナーから委託を受けて管理している

A賃貸物件の清掃・点検等の業務については、実際のところ

わが社からB社に業務委託しておるのじゃ。契約期間は2年間

で来年の9月までの契約となっておるが、更新することがで

き、委託料は確か月額25万円じゃったかな。

吉永弁護士 なるほど。

山縣社長 いやね、そのことを知った息子が先日、B社への

委託料は相場よりも高いと言いだして、B社に値引き交渉を

したそうなのじゃ。なんでも、来年の10月からは委託先を競

合他社のC社に切り替えようかとも考えているので、B社への

委託料がもっと安くならないかと打診したとかなんとか……。

吉永弁護士 それで交渉はうまくいったのですか?

山縣社長 うむ。B社からは、「委託料の見直しを契約更新の

際に行うとともに、今月から来年の9月までの12カ月の間、特

別サービスとして委託料をC社と同程度の月額22万円に値引

きするので、なんとか更新を検討してほしい」という回答だ

ったようじゃ。

 息子は私に似てなかなかの商売人でのう。これでわが社も

安泰、安泰。ほーっほっほ。

吉永弁護士 社長、ちょっと待ってください。御社の資本金

はおいくらでしたか?

山縣社長 うちは1億円じゃよ。

吉永弁護士 ではB社は?

山縣社長 えーっと、確か2000万円じゃったな。それが何か

問題でも?

吉永弁護士 社長、残念ですが、その業務委託契約には下請

法の適用があります。

山縣社長 下請法!?

吉永弁護士 はい。下請法は、適用の対象となる下請取引の

範囲を、1.取引の内容、2.取引当事者の資本金区分によって規定しています。本件のようなB社への業務委託は、1.下請法が適用対象としている「役務提供委託」に該当します。また、資本金の額が5000万円を超える法人たる事業者(「親事業者」と呼ばれています)が、資本金の額が5000万円以下の法人たる事業者(「下請事業者」と呼ばれています)に役務提供委託をするような本件の場合には、2.資本金区分についての要件も満たし、下請法の適用があるのです。

山縣社長 それで、下請法の適用があるとどうなるのじゃ?

吉永弁護士 はい。下請法は、取引先事業者に対する濫用

行為を規制するため、独占禁止法の特別法として制定されたも

のです。下請法の適用がある場合、親事業者はさまざまな制

限を受けます。例えば、今回のように下請事業者の責めに帰

すべき事由がないにもかかわらず、業務委託契約締結後に残

り12カ月分の委託代金を減額する行為は禁止されています。

ちなみに、契約更新の際に料金改定を行うことは、通常支払

われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めるなどの事情

がない限り禁止されていません。

山縣社長 そんな! B社とは合意のうえでの減額なのじゃ

よ!?

吉永弁護士 下請法は、下請取引に係る親事業者の不当な行

為を、より迅速かつ効果的に規制することをねらいとしてい

ます。そのため、当事者間の合意があっても下請法違反とな

ってしまうのです。

山縣社長 ……分かりました。せっかく息子を褒めてやろう

と思ったのじゃが……。

吉永弁護士 ところで、そのご様子ですと、御社のなかでは

下請法の存在があまり知られていないようですね?

山縣社長 うむ、恥ずかしながらあまり周知されておらんよ

うで……。

吉永弁護士 下請法は意外に見落とされやすい法律なので、

理解を深めるために社員研修などを実施されるのもよいかも

しれませんね。よろしければ、その社員研修、私がお引き受

けしますよ。顧問料とは別料金になりますけれど。

山縣社長 そ、そうですか。では、検討してみようかのう。

いやはや、吉永先生もなかなかの商売人じゃな。

吉永弁護士 そんなことはありませんよ。ただ、私の素晴ら

しい研修を受けさえすれば、御社も安泰かと。おーっほっほ。

【解説】

 下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という)は、1.「親事業者」(下請法第2条第7項)が法

定の対象取引を行っており、2.親事業者と「下請事業者」(下請法第2条第8項)が法定の資本金区分に該当する場合に適用されます。

 1.法定の対象取引(下請法第2条第1項ないし第4項))には、(ⅰ)製造委託、(ⅱ)修理委託、(ⅲ)情報成果物作成委託、(ⅳ)役務提供委託が挙げられており、例えば、(ⅰ)物品の製造を請け負っている事業者がその物品や部品等の製造を他の事業者に委託する場合、(ⅱ)物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託する場合、(ⅲ)ソフトウエア・メーカー等の「情報成果物」(下請法第2条第6項)を提供する事業者が、その作成作業を他の事業者に委託する場合、(ⅳ)ビルメンテナンス等の各種サービスの提供を行う事業者が請け負った役務の提供を他の事業者に委託する場合などが該当します。

 また、2.資本金区分は対象取引によって異なりますが、大まかにいえば、資本金の額または出資の総額が1000万円超の法人たる事業者は親事業者となる可能性があり、個人または資本金の額もしくは出資の総額が3億円以下の法人たる事業者は下請事業者としての保護を受けられる可能性があります。

 そして、下請法第4条においては、親事業者の下請事業者に対する著しく低い下請代金を不当に定める行為(買いたたき)、下請事業者に責任のない減額、不当返品等の行為が禁止されています。また、親事業者は、給付の受領または役務提供日から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めなければならず(下請法第2条の2)、親事業者には書面交付義務(下請法第3条)等も課せられています。

 下請法違反行為に関しては、公正取引委員会および中小企業庁により厳しく取り締まられています。例えば、書面調査、立入検査、勧告・公表等が行われており、違法行為をした親事業者等は最高50万円の罰金に処せられることもあります。また、支払遅延に対する遅延利息の率は、下請法第4条の2および公正取引委員会規則において14.6%と定められているため、企業としては決して軽視することのできる法律ではありません。

 公正取引委員会や中小企業庁からガイドラインやパンフレット等が配布されていますので、詳細を知りたい方はそれらを確認してください。

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