吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第41回 親族間の内紛 会社は誰のもの?

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 久保田真悟

吉永弁護士 武田社長、お久しぶ……。

武田社長 先生! 大変です!

吉永弁護士 まあ、そんなに慌てて、どうされたのですか?

武田社長 当社の先代であるうちのおやじが、昔約束した金

を払えと言ってきて困っているのです。

吉永弁護士 あらあら。もう少し詳しく教えていただけませ

んか。

武田社長 はい。おやじの話によると、昔、当社とおやじの

間で、当社がおやじに対して業務委託料を払うという契約を

したそうなのです。それで、そのときの約束を果たせと言っ

てきているのですよ。

吉永弁護士 なるほど。武田社長は当時、お父様とそのよう

な契約をしたという認識はあるのですか。

武田社長 いえ……。それが当時の社長は、私ではなくおや

じなのです。

吉永弁護士 それはつまり、当時、貴社の代表取締役であっ

たお父様が、貴社と取引をしたということですか。

武田社長 そういうことですね。おやじが代表取締役だった

ときに、自分に都合のよい契約を結んだのだと思います。

吉永弁護士 契約を結んだとき、貴社に取締役会はありまし

たか?

武田社長 ありました。私はそのとき、平の取締役でした。

吉永弁護士 その取引に関する取締役会議事録は残っていま

すか?

武田社長 おそらくないと思います。というよりも、当時は

おやじのワンマン会社で、取締役会を開いたことなんてあり

ませんでしたよ。

吉永弁護士 そうですか。それはよかったですね。

武田社長 え? どうしてですか。

吉永弁護士 伺っている内容からすると、当時、貴社とお父

様との間でなされた取引は、「利益相反取引」に該当すると思

われます。その場合、取締役会設置会社においては、取締役

会による承認がなければ取引は無効になり、お父様は貴社に

対して契約の履行を請求できないことになります。

武田社長 なるほど! それはよかったです。

吉永弁護士 今回は結果的によかったかもしれませんが、今

後、社長自身が利益相反取引をする際には気をつけてくださ

いね。

武田社長 はい。気をつけます。ところで、もうひとつ問題

が……。

吉永弁護士 まだ何かあるのですか。

武田社長 はい。おやじが、約束した金を払わないと私を解

任すると言ってきているのです。おやじは当社の株主なので

……。

吉永弁護士 うーん、それは大変ですね。貴社の支配関係は

どのようになっているのですか?

武田社長 あいにく、おやじが株の過半数を持っています

……。でも、吉永先生のお話だと、今回は取締役会による承

認のない利益相反取引ということで、おやじの言い分は成り

立たないということですから、当然解任の決議は成立しませ

んよね?

吉永弁護士 社長、残念ながらそれとこれとは話が別です。

武田社長 えっ?

吉永弁護士 株主総会での取締役の解任に、理由は要らない

ことになっています。ですので、お父様は理由の如何を問わ

ず、武田社長を取締役の地位から解任することができてしま

います。

武田社長 ……そうなのですか。

吉永弁護士 解任に正当な理由がない場合には、解任後、会

社に対して損害賠償請求をすることができますが、残念なが

ら解任を免れることは難しいでしょう。お父様に何とか矛を

収めてもらえるように、頑張るしかないと思います。

武田社長 分かりました。おやじが欲しがっていた高級ソフ

ァでも買ってやろうかと思います。

吉永弁護士 高級ソファですか。お父様は高級志向なのです

ね。

武田社長 そうなのですよ。昔から一貫しているのです。

吉永弁護士 おそらく、お父様は今でも会社が自分のものだ

という認識が強いのだと思います。今後のことも考えると、

会社の支配関係について整理しておいたほうがよいと思いま

すよ。

武田社長 分かりました。よく話し合ってみます。

【解説】

1.利益相反取引

 取締役が自己または第三者のために株式会社との間で行う取引を利益相反取引といいます。利益相反とは、文字どおり、株式会社と取締役との利害が対立するという意味です。この利益相反取引は、本来会社に対して忠実義務(会社法355条)を負うべき立場にある取締役が、会社ではなく自己の利益を図ることを優先し、結果として会社に損害を生じさせるおそれが高いことから、取引を有効に行うためには株主総会の承認(取締役会設置会社においては取締役会の承認)が必要であるとされています(会社法356条第1項第2号・第3号、同365条第1項)。

2.取締役解任決議

 取締役は、株主総会において、株主の議決権の過半数の承認により「いつでも」解任できるとされています(会社法339条第1項、341条)。解任事由の存在は要求されておらず、取締役に不正行為や適格性の欠如等の解任事由が存在しなくても、株主の過半数の承認が得られればいつでも解任することが可能です。ただし、正当な理由がないにも拘わらず取締役が解任された場合、解任された取締役は会社に対して損害の賠償を請求することができるとされています(会社法339条第2項)。

※本年5月1日施行の改正会社法では、「監査等委員である取締役」の解任決議が特別決議に加重されています(会社法344条の2第3項、309条第2項第7号)。