吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第40回 顧客から悪質なクレームを受けたら

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 伊東祐介

吉永弁護士 こんにちは、安斉社長。お元気ですか?

安斉社長 吉永先生、ご無沙汰しています。早いものでもう

4月ですね。ただ、春になると困った客が増えて参りますよ。

吉永弁護士 何かトラブルですか?

安斉社長 いえ、トラブルというほどではないのですが

……。販売した商品について、ちょっと厳しいクレームを受

けましてね。

吉永弁護士 あら、それは大変ですね。どのようなクレーム

を受けているのですか?

安斉社長 その客が言うには、うちの店で買った服に、小さ

な穴が空いていたそうなんです。

吉永弁護士 そのようなこともあるのですか。それは、きち

んとおわびをしなければなりませんね。

安斉社長 先生、うちはイタリアファッションを代表する一

流の総合アパレルですよ! そのようなことは絶対に……。

吉永弁護士 ないとも言い切れないのですね?

安斉社長 そうなんです……。

吉永弁護士 それなら、販売する前の検品状況や、その穴の

形状や空き方などを調査し、本当に販売前に穴が空いていた

のかを確認するべきですね。

安斉社長 その通りだと思います。ただ、その客がなかなか

一筋縄ではいかない相手でして。

吉永弁護士 どのようなお客様なのですか。

安斉社長 当社のスタッフが「穴の形状を見せてください」

とお伝えしても、「その服は今どこにあるか分からない」と

はぐらかされてしまうんです。確認しないと対応できないと

お伝えすると、「俺を疑うのか、ばかにしやがって。俺を誰だ

と思っている」などと大声で怒鳴るので、現場のスタッフは

すっかり怖がってしまっています。

吉永弁護士 えっ! それはひどいですね。

安斉社長 しかも現場のスタッフに、「誠意を見せろ」など

と、どう喝して土下座をするよう要求してくるのです。「夜の

11時に家に謝罪しに来い」などと、きつい要求ばかりされて

います……。

吉永弁護士 半沢直樹のドラマではないのですから、土下座

なんてあんまりですよ。貴社はそれに応じているのですか?

安斉社長 はい……。だって仕方がないじゃないですか。ス

タッフも渋々土下座したみたいです。

吉永弁護士 社長! そのような要求に応じてはいけません

よ!

安斉社長 えっ?

吉永弁護士 会社は消費者に対して責任ある対応をしなけれ

ばなりませんが、その顧客は限度を超えています。事実調査

をさせてもらえない以上、会社として対応できることはない

ですよね。ですから、土下座をする必要は全くありません

し、そのような要求は強要罪として犯罪になる可能性すらあ

ります。毅然とした対応をするべきです。

安斉社長 だけど、お客様は神様ですから……。

吉永弁護士 社長!

安斉社長 は、はいっ⁉

吉永弁護士 神様は土下座を要求したりしませんよ。顧客を

大切にするのは重要ですが、そのような悪質な要求は、毅然

とした対応で拒否しなければなりません。

安斉社長 ……言われてみれば、確かに神様にしてはあまり

にも意地悪ですよね。先生、これからどうしたらよいのか相

談させてください。

吉永弁護士 分かりました。喜んでご対応します。それでは

具体的なお話を聞かせてください。まず……。

【解説】

 顧客のクレームは、正当なクレームと不当なクレームに分けられます。それらのクレームにどう対応するべきか会社が判断するためには、顧客のクレームの理由が正当か、要求内容は妥当か、要求方法・態様はどのようなものかを確認する必要があります。

 本事例のケースでは、会社は顧客のクレームの理由が正当か否かを判断するために必要な商品の現物を確認することができていません。そのため、会社としては、「商品の現物を確認しないことには、会社として対応することができません」としてそれ以上要求に応じない方法をとるべきでしょう。さらに、土下座の強要は刑法上の強要罪(刑法223条)に該当する可能性があります。事実、消費者の不当なクレームが刑事事件にまで発展した事件が複数見受けられます。

⑴ 平成25年10月、札幌市内の衣料品チェーンで店員に土下座をさせて、その様子をツイッターに投稿した女性が強要罪で逮捕された事件。

⑵ 平成26年9月、コンビニエンスストアで店長に7時間の間、土下座を要求し、「車突っ込む言うてるで」「手ぶらで行きまんのか、謝りに行くとき」などと言い、たばこ6カートンを要求し、恐喝罪(刑法249条)の疑いで逮捕された事件。

 クレーム対応において重要なことは、1.クレームの事実確認、2.正当なクレームには誠実に対応する、3.不当なクレームは拒否するなど、法的に解決することです。「今回だけはこれで済まそう」と軽い気持ちで不当なクレームに応じてはなりません。一度そのようなクレームに応じてしまうと、反社会的な団体から狙い打ちされることが予想される上、不当なクレームに応じるということは、他の善良な顧客よりも不当なクレームを主張した者を優遇することにつながるからです。

 クレームの悪質性が強い案件や反社会的勢力が関与していることが疑われる案件については、警察、弁護士、各都道府県の暴力団追放運動推進都民センター(正式名称は各地域によって異なります)の担当者と緊密に連携を取り、早期解決を図ることをお勧めします。