吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第38回 労働組合から団体交渉の申し入れを

    受けたら

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 岸川 修

武田社長 吉永先生、お久しぶりです。

吉永弁護士 前にお会いしたのは去年の10月でしたから、随

分お久しぶりですね。

武田社長 ここ最近、ずっと寒くて、なかなか暖かくなりま

せんね。

吉永弁護士 そうですね。まだ寒いので、お互い風邪には気

をつけていきましょう。

武田社長 はい。ところで、最近ちょっと腹立たしいことが

ありまして。

吉永弁護士 何があったのですか?

武田社長 実は、当社の山田という事務の従業員が、経理部

に「残業代の支払いが少ないのではないか」と聞いてきたそ

うです。当社では、従業員の勤怠はタイムカードでしっかり

管理し、残業代もきちんと払っていましたので、経理部長は

山田に、「残業代はきちんと払っている」と回答しました。

 山田は「分かりました」と言っていたとのことで、納得し

てくれたと思いました。ところが先週、突然ある労働組合か

ら、山田が加入したことと、山田への残業代不払いの件で団

体交渉を申し入れることが書かれた通知が届いたのです。あ

まりに突然でビックリし、憤慨しましたよ。

吉永弁護士 つまり、山田さんが労働組合に加入して、その

労働組合から団体交渉の申し入れがあった、ということでし

ょうか。

武田社長 そうです。

 どこの誰だかよく分からない人たちが、山田のことであれ

これいってくるというのは、全くもって釈然としません。私

たちはきちんと残業代を払っていますし、日々の仕事で本当

に忙しいのですよ。

 先生、団体交渉なんて無視してもよいですよね!?

吉永弁護士 社長、お気持ちは分かりますが、そのお考えは

問題ですね。

武田社長 えっ、そうなのですか。でも訳の分からない人た

ちと交渉なんて、とても無理ですよ……。

吉永弁護士 実は労働組合には、法律によって、使用者との

間で労働者の労働条件について交渉する権利である「団体交

渉権」が認められています。

 逆に使用者は、団体交渉に誠実に対応する義務がありま

す。しかも単に座って話を聞けばよいのではなく、労働組合

の言い分に対して、根拠や資料を示しながら、できるだけ具

体的な回答をする必要があります。

武田社長 はぁ……。つまり私たちは、このよく分からない

労働組合との交渉に臨み、丁寧に説明しなければならないの

ですか……。

吉永弁護士 仰るとおりです。

武田社長 もし、申し入れを拒否したり、丁寧に説明しなか

ったりした場合には、どうなるのですか。

吉永弁護士 その場合、不当労働行為という禁止行為に当た

るとして、労働委員会という組織から、団体交渉に応じなさ

いといった命令を受ける可能性があります。

武田社長 そんなに大変なのですか……。正直に言ってやり

たくないのですが、法律でそこまで厳しく決まっていること

なら仕方がないですね。

 ただ、当社には労働組合がないこともあり、どのように対

応すればよいのか全く分かりません。対応を間違えないため

に、事前に吉永先生に相談をさせていただきたいのですが。

吉永弁護士 もちろんご対応いたします。初めての事態とな

ればどうすればよいかお分かりにならないと思いますので、

事前に打ち合わせをさせていただいたほうがよさそうです

ね。もしよろしければ、私も団体交渉に同席いたしますよ。

武田社長 そうですか! 先生、心強いです。いつも本当に

ありがとうございます!

*解説*

※以下、労働組合法を「法」と表記いたします。

 

1.誠実団交義務

 労働組合(以下、「組合」といいます。)には、労働組合員である労働者の待遇又は労使関係上のル

ールについて合意するため、代表者を通じて、使用者との間で「団体交渉」(以下、「団交」といいま

す。)という交渉をする権利が認められています(憲法28条、法1条1項・6条)。

 逆に、使用者は、組合との団交を、正当な理由なく拒んではならないとされています(法7条2号)。

このとき、使用者は単に交渉のテーブルに着いて組合の主張や要求を聞きさえすればよいのではな

く、できるだけ根拠や資料を示して具体的な回答をするなど、誠実に対応する義務があるとされてい

ます。

 しかし、使用者は、組合の要求をそのまま受け入れる必要はなく、組合との交渉がまとまる必要も

ないとされています。あくまで、しっかり話を聞き、丁寧に説明することが求められています。

 

2.不当労働行為に対する救済命令

 使用者が組合の団交申し入れを拒否したり、拒否しなくても誠実に対応しなかったりした場合は、

労働組合法が定める禁止行為である「不当労働行為」に該当する場合があります(法7条2号)。不当

労働行為は、団交拒否以外に、不利益取扱い(法7条1号)や支配介入(法7条3号)等がありますが、

組合はこうした不当労働行為を受けた場合、各都道府県にある労働委員会という役所に、救済命令の

申立てをすることができます。申立てを受けた労働委員会は、審査によって、団交拒否や不誠実な対

応が不当労働行為であると認めた場合には、誠実に団交せよ等の命令を発することになります。

 

3.まとめ

 組合から団交の申し入れを受けた場合には、基本的に拒否せず、誠実に対応する必要があります。

 しかし、具体的な対応方法は、技術的に難しいことがありますので、実際に団交の申し入れを受け

た場合には、弁護士等の専門家に相談されることをお勧めいたします。