吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第36回 パ ートタイマーを雇い続けることが

    できなくなる!?

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 丸山純平

鈴木社長 吉永先生、今日もお時間を頂戴し、ありがとうご

ざいます。

以前のノウハウ漏えい対策(2014年4月号、第28回参照)では、有益なアドバイスをありがとうございました。

先生のアドバイスを受けて、管理体制を見直しているところ

です。

吉永弁護士 それは何よりです。

鈴木社長 ただ、管理体制の見直しも簡単ではありませんね。

吉永弁護士 そうですね。以前もご説明したとおり、ノウハ

ウを営業秘密として保護するには、秘密管理性が重要ですか

ら。管理体制の見直しを行っていくなかで、困ったり悩んだ

りすることがあれば、またご相談ください。すぐに対応しま

すよ。

鈴木社長 はい。本当に頼りにしています。

吉永弁護士 そう仰っていただけると光栄です。お客さまの

お悩みやお困りごとにしっかり対応するのは当然のことです

ので、これからも何なりとご相談ください。

 ところで、今日はどうされましたか。

鈴木社長 はい。当社で雇っているパートタイムのプログラマーさんのことなのです。先日、同業の経営者の集まりがあって、知り合いの社長さんが、だいぶお悩みのご様子だったのです。

 その社長さんの会社では、工場でライン作業を担当している従業員の方が何人かいて、そのような従業員とはフルタイムではなく、午前中だけ、あるいは午後だけ働くパートタイムで契約しているケースが多いらしいのです。パートタイムの従業員には1年契約でお願いしていて、契約更新を繰り返してきたということなのです。

 しかし、何でも数年後には、そのような期間を定めてのパートタイムの契約を続けられなくなるそうで、どう対処すればよいのか困っているとのことでした。

 その話を聞いて、私も自分の会社では大丈夫なのか心配になったのです。

吉永弁護士 平成25年4月から施行されている労働契約法改正

の件ですね。鈴木社長の会社にも、同じような契約のパート

タイマーさんがいらっしゃるのですか。

鈴木社長 はい。先生もご存じのように、当社は美術工芸品

の販売を行っています。以前お話ししたように(2014年1月

号、第25回参照)、当社の顧客もずいぶん増えて、昨年には1

万人の大台を超えました。それで、顧客データ管理業務専属

のプログラマーを雇うことにして、今年の9月1日付でパート

契約の形で入社してもらったのです。

吉永弁護士 派遣会社からプログラマーさんを派遣してもら

うのではなく、鈴木社長の会社が直接雇用されているのです

ね。

鈴木社長 はい。実は派遣会社にお願いすることも考えたの

ですが、顧客データ管理業務の専属者の配置を検討していた

矢先に、例の通信教育会社での顧客情報漏えい事件が起きま

した。その顧客情報を持ち出したのが、情報管理業務を担当

していた派遣従業員だったので、直接雇用して担当してもら

ったほうがリスクは少ないと思い、当社で直接雇用する形を

選んだのです。

吉永弁護士 なるほど。たしかにあの事件では派遣従業員が

顧客情報を持ち出しましたよね。直接雇用のほうが安全かも

しれません。ところで、パート契約の形ということですが、

そのプログラマーさんとはどのような契約になっているので

すか。

鈴木社長 はい、カレンダーの暦通りに働いてもらうことに

なっていますが、残業はないという条件で、就労時間は正社

員よりも短く、午前10時から午後4時までとなっています。契

約期間は1年で、更新する場合もあるという形にしています。

吉永弁護士 なぜ1年契約なのですか。

鈴木社長 はい。今後も顧客が増えていくことを考え、顧客

情報管理業務を別会社に移管することも視野に入れているの

で、柔軟な契約にしたかったのです。ただ、いつ別会社をつ

くるかも分からない状況で、それまでは今のプログラマーさ

んにパートタイマーとして担当してもらいたいと考えている

のです。先生、それまでずっとこの契約のままで更新できる

でしょうか。

吉永弁護士 実は労働契約法の改正があり、そのようなこと

が難しくなりました。御社のプログラマーさんとの契約のこ

とを、一般的に有期労働契約といいます。この有期労働契約

が、平成25年4月1日以降に開始の1回以上更新された2つ以上

の有期労働契約の通算期間が5年を超える場合には、有期労働

契約者から会社に対して、期間の定めのない労働契約への転

換を申し込む権利、すなわち無期転換申込権が発生するので

す。

 鈴木社長の会社の場合、そのプログラマーさんとの契約開

始日は平成26年9月1日ですね。今後、1年契約で更新するということですので、平成31年9月1日以降も同じように1年契約で更新した場合には、その日以降、プログラマーさんに無期転換申込権が発生します。

鈴木社長 その無期転換申込権が行使された場合、会社は拒

否できないのですか。

吉永弁護士 労働契約法の条文上、労働者から無期転換への申

し込みがなされた場合、使用者である会社はその申し込みを承諾したものとみなされ、申し込み時点で、申し込み時の有期労働契約の終了する翌日からの無期労働契約が成立します。承諾はそもそも必要なく、当然、拒否することはできないのです。

鈴木社長 そうなのですね。ただ、今のところ、そのプログ

ラマーさんに、期間の定めのない労働契約で働いてもらうこ

とは全く予定していないので、大変困りました。

吉永弁護士 この無期転換申込の件には、雇い止めの問題も

関連するなど、慎重に検討する必要があります。今日はこの

無期転換申込権が存在することをまずご理解いただいたうえ

で、今後どのように対処していくべきか、継続的に検討して

いきましょう。

鈴木社長 分かりました。先生、ぜひよろしくお願いします。

*解説*

 平成24年8月に労働契約法の一部が改正され、有期労働契約について、いわゆる「5年無期転換申込ルール」が導入されることとなりました(同法18条)。

 この規定によると、平成25年4月1日以降に有期労働契約が開始され、1回以上更新された2つ以上の有期労働契約の通算期間が5年を超える場合、労働者に無期転換申込権が発生します。当該労働者は、通算契約期間が5年を超えることとなる有期労働契約の契約期間の初日から当該有期労働契約の契約期間が満了する日までの間、無期転換申込権を行使でき、これに基づく申し込みがなされたときは、使用者がこれを承諾したものとみなされます。したがって、労働者がイニシアチブをとって、有期労働契約を無期労働契約に転換することができることとなりました。労働者からの無期労働契約締結の申し込みとこれに対する使用者の承諾という形式をとっていますが、労働者からの申し込みがなされた場合、使用者はこれを「承諾したものとみなす」とされていますので、承諾を拒否することはできません。

無期転換申込権の発生および行使期間の代表的な例は以下の通りです。

 なお、この無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換申込権を放棄させることについて、厚生労働省の通達は、公序良俗に反し無効と解されるとしているため、注意が必要です。

 会社において、有期労働契約を締結しており、今後も継続することを予定されている場合、この5年無期転換申込ルールや、同じく直近の労働契約法改正の対象となった雇止め法理(同法19条)等の関連事項に留意のうえ、対処することが必要となります。あらかじめ弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

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