吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第35回 商標権の効力の範囲

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 沼野友香

安斉社長 吉永先生、本日もいろいろとありがとうございま

した。ご親切に相談に乗っていただけるので、いつも長くな

ってしまって申し訳ありません。

吉永弁護士 いえいえ、そう言っていただけるとこちらもう

れしい限りです。

安斉社長 今日はこれで……っと。あっ! 先生、もうひとつ

ご相談したいことがありました。よろしいですか?

吉永弁護士 もちろんですよ。

安斉社長 以前ご相談に乗っていただいた商標のことなので

すが……(第19回「会社のロゴはしっかり守りましょう!」

(2013年7月号)を参照)。

吉永弁護士 それは確か、貴社のブランドロゴを使って商売

をしている会社に対して、商標権に基づいてその使用の差し

止めをしたいというお話でしたよね。

 あのときは、貴社商標と同一のロゴを使用している会社に

は警告文を出し、結局警告文を送ったすべての会社に使用を

やめてもらえたところで落ち着いていましたよね。

 また、そのような会社が現れたのですか?

安斉社長 ええ。実はですね、先日わが社と全く同じロゴを

使った飲み屋を見つけたのです! 当然、わが社とは何の関係

もない飲み屋ですよ。この飲み屋がどういう店かは分かりま

せんが、わが社のロゴに変なイメージがついても嫌なので、

早いところその飲み屋にも警告文を送って、使用をやめさせ

たいと思っているのですがね。先生のほうでお願いできませ

んか?

吉永弁護士 分かりました。ちょっと確認をさせていただき

たいのですが、今日は商標登録証をお持ちですか?

安斉社長 いや、それがこの相談に関してはすっかり記憶か

ら抜け落ちていたので、何も資料は持ってきていないのです

よ。すみません。

吉永弁護士 分かりました。では、こちらで調べてみますね。

安斉社長 すぐに調べられるのですか?

吉永弁護士 ええ。INPITが提供しているIPDLで確認ができ

るんですよ。

安斉社長 いんぴと? あいぴー……??

吉永弁護士 うーん。安斉社長、このままだと警告文を出す

ことは難しいですね。

安斉社長 えっ、なぜですか!? 商標登録はされていますよ

ね?

吉永弁護士 たしかに商標登録はされていますが、この商標

は洋服などのファッションに関する商品役務で登録されてい

るので、貴社にはその飲み屋に対してロゴの使用をやめさせ

る権利はないのですよ。

安斉社長 えっ!!

吉永弁護士 商標というのは、その商標を使用する商品役務

を指定して出願することになっているのです。商標としての

効力も、この指定商品役務の範囲でしか生じないのですよ。

安斉社長 じゃあ、どうしたらよいのですか? あの店がどん

な店か詳しいことは分かりませんが、もし変な店だったらわ

が社のイメージにも傷がつきかねません!!

吉永弁護士 そうですね。不正競争防止法上の差止請求など

の手段も考えてみましょうか。いずれにしてもこれらの手段

を採ることができるのか、もう少し事情を聴きながら検討し

なければいけませんね。

安斉社長 分かりました。このままでは大変だ。先生、引き

続きよろしくお願いします!!

【解説】

1.商標検索

 商標の出願登録情報に関しては、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT:National Center for Industrial Property Information and Training)が提供している無料検索データベース「IPDL(特許電子図書館)」で検索することができます。

 

2.商標と指定商品役務との関係

 商標は、標章(文字、図形、記号もしくは立体的形状もしくはこれらの結合またはこれらと色彩との結合※)であって、業を行う者がその商品または役務について使用するものをいいます(商標法第2条第1項)。商標登録出願に際しては、商標を使用する商品役務を指定することが求められており(同法第6条第1項)、商標権の効力も指定商品役務の範囲で認められています(同法第25条、第37条第1号)。

 したがって、商標にとって指定商品役務との関係はとても重要であり、商標登録出願の際にどのような商品役務を指定するかが極めて重要になります。商標登録出願をする際には、将来の事業の見通しを踏まえて十分に指定商品役務を吟味する必要があります。

※改正法(未施行)では、音も商標として保護対象に追加される見込みです。

 

3.防護標章登録制度

 防護標章登録制度とは、登録商標が商標権者の業務に係る指定商品役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合において、他人がその商標をその指定商品役務と類似しない商品役務について使用すると、当該商標権者の取り扱う商品役務であるかのように出所の混同を生じさせるおそれのあるときは、商標権者に、その混同のおそれのある商品役務について、その登録商標と同一の標章についての防護標章登録を受けることを認め(商標法第64条)、商標権の効力を非類似の商品役務にまで拡大する(同法第67条)制度です。

 

4.不正競争防止法

 不正競争防止法では、①他人の商品・営業の表示(商品等表示)として需要者の間に広く認識されているものと同一または類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為(周知表示混同惹起行為、不正競争防止法第2条第1項第1号)や、②他人の商品・営業の表示(商品等表示)として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為(著名表示冒用行為、同法第2条第1項第2号)に対し、差止請求(同法第3条)や損害賠償請求(同法第4条)を認め、行為者には刑事罰(同法第21条第2項)を定めています。

 1.と2.の違いは、1.は「周知」性で足りる(取引の相手方等に知られていること。その範囲は一地方であっても足りる。)のに対し、2.は「著名」性が求められます(世間一般に全国的に広く知られていることが必要。)が、1.と異なり、「混同」は必要ありません。