吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第34回 株主ともめちゃった!?

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 大久保映貴

吉永弁護士 ……それでは武田社長、この案件は引き続き私

のほうでご対応いたします。今日はお忙しいところをありが

とうございました。

武田社長 ……。

吉永弁護士 どうされたのですか、社長? 元気がありませ

んね。

武田社長 うーん、実は先ほど、とてもお世話になっている

取引先の社長さんと電話で話をしたのですが、そのことが気

になっているのです。

吉永弁護士 どんなお話だったのですか。よろしければお聞

かせいただけませんか。

武田社長 昔、その社長さんの会社の資金繰りが、とても苦

しい時期がありましてね。そのとき、親戚や取引先を回って

お金を集めて、出資をしてもらったらしいのですよ。それ

で、社長さんの会社は立て直すことができて、今ではこの経

済情勢のもとでもしっかりとした業績を上げているのです。

 ところが今になって、そのとき株主になった親戚や取引先

が、株主としての権利を主張し出したり、株式を高額で買い

取ってくれなどと言い出したりしているらしいのですよ。ど

うも話がこじれてきているようで、いつも元気な社長さん

が、ずいぶん疲れているような印象でした。

吉永弁護士 なるほど、それは大変ですね。ですが、こうい

うことってよくあるのですよ。

武田社長 えっ、そうなのですか?

吉永弁護士 はい。取引先の社長さんのような場合もあれ

ば、創業者が亡くなって、その親族が相続して、また相続が

起きるといったことを繰り返すうちに、株主と経営者との関

係が希薄化する場合もあります。そうなると、経営への理解

が得られなくなってきて、株主が無茶な要求をするようなこ

とが起きるのです。

武田社長 そうなのですか。私は元気だから、まだ心配しな

くても大丈夫だと思いたいですね。

吉永弁護士 そうですね、社長にはまだまだ頑張ってもらわ

ないといけませんね!

 ただ、事業承継対策がうまくできていなくて、後継者に株

式を引き継ぐことができなかったりしてしまうことはとても

多いのです。

 そのため、上場を目指す会社はまた別ですが、中小企業に

おいては、いかに経営者に「支配権」を集中させ、その「支

配権」を分散させないようにするかが大事なのです。

武田社長 そういえば、経営者が「支配権」を得るために

は、どのくらいの株式を持っていればよいのでしたっけ?

吉永弁護士 会社法の観点からは、原則として、役員を選解任できる議決権の過半数を持っているかどうか、定款変更などが可能となる議決権の3分の2以上を持っているかどうかが、「支配権」の目安になるといえます。

 しかし、やはり原則は、経営者の方が100%株式を保有することが大切です。ただでさえ会社経営は難しいのですから、経営に集中するためにも株式を100%保有しておくべきでしょう。

 そうでないと、少数株主が株主総会の招集を請求したり、「会計帳簿を閲覧させろ」などと言ったりしてくる場合があるのです。また、株主総会決議や取締役会決議が無効だと主張をされるリスクもあります。さらに、「株式を買い取れ」などと言われると、業績がよい会社では株式の価値が上がっていて、会社の資金繰りにとって痛手になる場合もあります。

 取引先の社長さんは、どのくらいの株式を持っているのですか。

武田社長 その社長さんは90%以上を持っていると話してい

ましたね。ですから、「支配権」の点では大丈夫ですね。

 ただ、今回の話を聞くと、やはり100%持っていないと問題

が起きることもあるのですね。吉永先生、100%にするために

はどのような方法があるのでしょうか。

吉永弁護士 基本は、各株主から買い取ることになります。

ただ、取引先の社長さんのように、株主の人数が多くなって

くると、個別に交渉するのは大変になってきます。

武田社長 そうですね。社長さんの話では、相手が強硬的に

なっているようですし……。

吉永弁護士 会社法では、会社から少数株主を排除する手法

が認められています。少数株主の締め出し(キャッシュアウ

ト)を直接の目的とする制度ではないのですが、これまでは

全部取得条項付種類株式を用いて少数株主を締め出す手法が

よく用いられてきました。

 しかし、会社法が改正されて、少数株主の締め出しを直接

の目的とする、特別支配株主の株式等売渡請求という制度が

設けられたのです。

武田社長 ほう! それはどういう制度なのですか。

吉永弁護士 ある会社の特別支配株主が、その会社の株主全

員に対して、それらの者が持っている株式を全部自分に売り

渡すことを請求することができるという制度なのです。この

制度を用いれば、株主総会決議ではなく、取締役会決議だけ

で、少数株主から株式を強制的に買い取ることができるので

す。

武田社長 それはなかなかアグレッシブな制度ですね。その

制度を活用すれば、個々の株主と交渉する必要はないという

ことですね。ところで、「特別支配株主」というのはどのよう

な株主なのですか。

吉永弁護士 特別支配株主というのは、ある会社の議決権の

90%以上を持っている株主のことをいいます。

武田社長 そうですか! それなら取引先の社長さんも、こ

の制度を使うことができますね。

吉永弁護士 制度を利用できる可能性が高いですね。ただ、

事業承継の観点や、税金の問題がありますので、個別のケー

スに沿った検討が不可欠です。

武田社長 分かりました。それにしても、すばらしい制度で

すね! 取引先の社長さんに、今聞いた話を伝えてもいいで

すか?

吉永弁護士 もちろんです。ぜひお伝えください。

武田社長 ありがとうございます! なんだか私まで、ほっ

とした気分になりましたよ!

*解説*

 会社法の一部を改正する法律案が、平成26年6月20日、可決成立しました〔施行日は、公布の日(平成26年6月27日)から起算して1年6カ月を超えない範囲内において政令で定める日とされています〕。コーポレート・ガバナンス改善のため、監査等委員会設置会社の新設、社外取締役を置くことが相当でない理由の開示義務が定められたことが新聞等でも話題になりましたが、今回の改正により特別支配株主の株式等売渡請求が新しく創設されるなど、少数株主の締め出し(キャッシュアウト)の手法が整備されました。

 会社法上、少数株主の締め出し(キャッシュアウト)の効果が得られる手法としては、以下のものが考えられます。

1. 株主から買い取る

2. 現金対価の株式交換・株式移転等を行う

3. 株式併合を行う

4. 全部取得条項付種類株式を用いて行う

5. 特別支配株主の株式等売渡請求を行う

 これらの手法のうちどの手法を用いるのが適切か検討するにあたっては、株主総会決議が必要であるか否か、税務コストが発生するか否かなど、諸般の事情を考慮の上、検討する必要があります。

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 うーん、実は先ほど、とてもお世話になっている

 えっ、そうなのですか?

 そうなのですか。私は元気だから、まだ心配しな

 そういえば、経営者が「支配権」を得るために

 そうですね。社長さんの話では、相手が強硬的に

 ほう! それはどういう制度なのですか。

 そうですか! それなら取引先の社長さんも、こ

 分かりました。それにしても、すばらしい制度で

 ありがとうございます! なんだか私まで、ほっ