吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和先生の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第33回 社長、銀行融資の個人保証を外せるケースが増えそうです!

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 渡邊康寛

安斉社長 吉永先生、こんにちは。

吉永弁護士 こんにちは、安斉社長。事業のほうはいかがですか。

安斉社長 最近は景気も上向き、晴れ晴れとした気分で仕事を行えているので、公私共に順調ですよ。

吉永弁護士 それは何よりです。

安斉社長 昔の苦労がうそのようです。この会社を設立する前にやっていた、家具の輸入業を畳むときは悲惨でしたよ。借り入れの個人保証をしていたために、安斉家が代々所有してきた土地まで失いましたからね。

吉永弁護士 それは大変でしたね。

安斉社長 ええ、今でもたまに夢を見るのです。私が今の会社を引退する直前に経営が傾いて、連帯保証をしている私も財産を根こそぎ失ってしまうという夢を……。

吉永弁護士 安斉社長の会社はきっと大丈夫だと思いますが、経営者保証(会社の債務について社長が行っている個人保証)を外すことができればもっと安心できますね。

安斉社長 それはそうですよ。でも、銀行は保証をおいそれと外してはくれませんよ。

吉永弁護士 実は社長、とてもよいお話があるのです。平成26年2月1日より、中小企業庁が公表した「経営者保証に関するガイドライン」の適用が開始され、すでに恩恵を受けている経営者も現れているのです。

安斉社長 ほう。それはどのようなものなのですか。

吉永弁護士 これまで、融資を受ける中小企業経営者の多くは、会社(法人)への融資に対して、個人保証を付けてきま

した。しかし、経営者が失敗を恐れて思い切った事業展開が

できなくなったり、窮地に陥った際に保証責任を追及される

ことを恐れて、早期の事業再生を躊躇したりする弊害があり

ました。

安斉社長 そのとおりですな。

吉永弁護士 そこで、今回のガイドラインの適用により、一

定の事項に気を付けることで、中小企業経営者は個人保証な

しに融資を受けられるようになりました。同時に、既存の融

資に付いている経営者保証も外してもらいやすくなったのです。

安斉社長 なんと! それは本当ですか! ちなみに、その「一定の事項」というのはどのようなものなのですか。

吉永弁護士 まずひとつ目の大きなポイントとしては、財務基盤を強化していることです。御社の場合、先日拝見した財務諸表を見るかぎり、安定して利益が出ていますし、自己資本比率も優秀なので、この点は大丈夫そうです。

安斉社長 そうですか。恐縮です。

吉永弁護士 2つ目が、「財務状況の正確な把握、適時適切な

情報開示等による経営の透明性確保」です。

安斉社長 わが社の経理担当は優秀なので大丈夫……かな?

ははははは。

吉永弁護士 そうですね。強いていえば、事業計画や業績見

通しについても、情報開示の要請に応えられるようにしてお

くとよいと思いますよ。

安斉社長 はい、承知しました。

吉永弁護士 それから3つ目は、「法人と経営者との関係の明

確な区分・分離」です。社長が会社のお金を役員貸し付けな

どで使っているようでは、経営者保証を外すのは難しいでし

ょう。

安斉社長 うっ……、例のポルシェのことが脳裏をよぎりま

したが、吉永先生のアドバイスにしたがってきちんと運用し

ていますから大丈夫でしょう(第3回を参照。安斉社長は社用

車としてポルシェを使用している)。とはいえ、役員報酬や配

当が適切かなど、ちょっと不安な気もしてきました。

吉永弁護士 法人と経営者の間の資金のやりとりについて

は、適切な範囲を超えないようにする体制を整備し、きちん

と運用できるようにするとよいですね。整備・運用の状況を

外部専門家が検証し、その結果を債権者に開示することも望

ましいとされています。

安斉社長 そうですか。そのあたりについては、専門家のお

墨付きが得られれば心強いですね。

吉永弁護士 検証業務を多く扱っている知人がいますので、

よろしければご紹介しますよ。また、ご依頼いただければ、

銀行との交渉に私も同席します。

安斉社長 それは心強い! ぜひお願いします。

【解説】

1 制定経緯

 経営者保証には、経営への規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や、保証後において経営が窮境に陥った場合における早期の事業再生を阻害する要因となっているなど、企業の活力を阻害する面もありました。

 そこで、この弊害を抑制するため、有識者が集まって経営者保証に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」といいます)が検討され、平成25年12月5日に公表、平成26年2月1日から適用されるようになりました。このガイドラインは法的拘束力こそないものの、金融機関は順守することが期待されています。

 

2 経営者保証のない融資の促進について

 ⑴ 主たる債務者および保証人等における対応

ガイドラインにおいて、主たる債務者および保証人等は、次の対応に努めるものとされています(ガイドライン4頁以下)。

  1.法人と経営者との関係の明確な区分・分離

  2.財務基盤の強化

  3.財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

 ⑵ 対象債権者における対応

 金融機関に対しても、経営者保証を求めない可能性や、条件付き保証契約(債務者が特約に抵触しないかぎり保証債務の効力が発生しない契約)、ABL、金利の一定の上乗せ等のメニューを充実させ活用する可能性について、検討すべきことが定められています。

 

3 保証債務の整理について

 ガイドラインは、上記2の融資開始時等の事象のみならず、保証債務の整理の場面についても規律を設けています(ガイドライン8頁以下)。ガイドラインの適用を受けることができれば、経営者が安定した事業継続をしたり、事業清算後に新たな事業を開始するなどのため、一定の現金や、華美でない自宅を残存資産として残すことができる可能性があります。

 昔の苦労がうそのようです。この会社を設立する前にやっていた、家具の輸入業を畳むときは悲惨でしたよ。借り入れの個人保証をしていたために、安斉家が代々所有してきた土地まで失いましたからね。