吉永弁護士の「社長、他人事ではないですよ!」

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中小企業の経営者にとって、税理士は最も身近な存在です。そのため、税務に限らず、公私にわたってさまざまな相談が寄せられることも少なくありません。そのような相談に応じて、各種の周辺業務に取り組んでいる方も多いでしょう。しかし、周辺業務は税理士の専門領域ではないため、対応ミスによりトラブルが生じやすいと言われています。この連載では、日本税理士会連合会顧問の鳥飼重和先生(鳥飼総合法律事務所)の監修により、税理士に寄せられることの多い相談と、弁護士から見た有効な対応方法を解説します。

第32回 濫用的会社分割って!?

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 北口 建

吉永弁護士 こんにちは、山縣社長。今日も暑いですね。

山縣社長 おお、吉永先生。全く暑いのう。先生は外出も多

いようじゃから、体調にはくれぐれも気をつけてくだされよ。

吉永弁護士 ありがとうございます。山縣社長もお気をつけ

ください。

山縣社長 早速じゃが、今日はわしの弟が経営する会社のこ

とで相談したいのじゃ。

 実は弟は、不動産会社を経営しておるのじゃが、このとこ

ろ新たに手掛けた飲食業でことごとく失敗し、大きな借金を

つくってしまって経営が傾いているようなのじゃよ。このま

までは倒産してしまうかもしれなくてのう……。

吉永弁護士 まぁ! それは大変ですね。

山縣社長 この前、心配になって弟に様子を聞いてみたら、

今は会社の再建に取り組んでいるようなのじゃ。

 なんでも、知り合いのコンサルティング会社から、利益の

出ている不動産業のみを切り離して新設会社に移転させ、不

採算の飲食業だけを現会社に残して現会社を破産させること

で、債務をカットして再建できる、というような話を聞いた

そうなのじゃ。

 そこで弟は、この処理を進めようとしているのじゃが、こ

んなことが本当に可能なのかのう? あまりにも都合のよい

話なので、心配になったのじゃ。

吉永弁護士 会社法上の制度で会社分割という手法を使うこ

とにより可能です。

 このように優良部門を会社分割により切り離して新設会社

に移転させ、他方で不採算部門については債務免除を受けた

り、または破産させたりするという手法は「第二会社方式」

といって、再生や破産の案件ではよく利用される手法です。

 会社分割では、債権者の同意なく事業に関して有する権利

義務、資産、負債を任意に新設会社に承継したり、旧会社に

残存させたりできるため、債務を整理するにはとても使い勝

手のよい制度です。

山縣社長 なるほど。弟が会社の優良資産や金銭を新設会社

に移転させて、銀行の借入金債務を旧会社に残すことが本当

にできるのじゃな。

 しかし、そんなことをしたら銀行は不測の損害を被ってし

まうことになると思うのじゃが、許されるのかのう? 借金

がなかったことになるのじゃぞ。

 弟はこの方法を聞いてから、銀行や仕入先に黙って会社分

割をし、借入債務や遊休資産だけを旧会社に残して踏み倒そ

うと画策しているようなのじゃよ。

吉永弁護士 社長が心配されるのはごもっともです。仰ると

おり、債権者への影響を無視した強引な会社分割は認められ

ません! 「濫用的会社分割」と判断され、財産の移転行為

が取り消される可能性があります。

山縣社長 濫用的会社分割? それはいったいなんなのじ

ゃ?

吉永弁護士 会社分割に詐害性が認められる場合、それを認

識して会社分割を行った場合には、詐害行為に該当し、債権

の回収を害された債権者は詐害行為取消権を行使することが

できます。また、倒産手続きの場面で否認権行使の対象にも

なります。

山縣社長 やはりそうか。もし詐害行為取消権や否認権の行

使が認められた場合はどうなるのじゃ?

吉永弁護士 新設会社への権利の承継の効力が否定されるこ

とになります。その結果、債権者は、移転した財産の現物の

返還請求や、価格賠償を請求することができると考えられま

す。

山縣社長 なるほど、ではその詐害性というのはどのような

場合に認められるのかのう?

吉永弁護士 詐害性の有無は一概に判断できませんが、例え

ば、会社分割により債権者が当初期待していた弁済額を下回

る場合には該当すると考えられます。その他、他の債権者と

の不公平性や債権者に承諾なく行われたかという点も加味し

て判断される傾向があります。

山縣社長 ここまで聞いた話だと、弟のやろうとしているこ

とは濫用的会社分割に該当しそうじゃな。弟が債権者に責め

られるようなことをするのは黙って見ておれん。

 とはいえ、会社分割自体は、不動産事業を存続させるよい

方法じゃな。債権者に納得してもらいつつ、会社分割をする

ためにはどう対応すればよいのじゃろう?

吉永弁護士 まずは、この会社分割により、弟さんの会社の

再建が図られ、企業価値が増加し、旧会社の債権者および新

設会社の債権者の弁済率が増加するかどうかをしっかり検討

する必要があります。そのうえで、銀行などの債権者と、誠

実に協議をする必要があります。

山縣社長 なるほど。よく分かった。まずは弟に、吉永先生

から聞いた話を伝えて、会社分割が借金をなかったことにす

る魔法ではないことを分かってもらうことにしよう。

 それから、わしは弟と取引のある銀行に顔が利くから、リ

スケや債権放棄ができないかお願いしてみるとしよう。

吉永弁護士 私もそうされるのがよいと思います。弟さんの

会社がうまく再建できるように祈念しています。

山縣社長 今日も本当によい話を聞きましたぞ。いつもあり

がとう。

吉永弁護士 とんでもありません。弟さんのことをこんなに

心配されるなんて、さすが山縣社長ですね。あらためて見直

しました。

山縣社長 ハハハハハ。吉永先生からそう言ってもらえると

うれしいのう! 今回はかっこよく終われそうじゃのう!

吉永弁護士 (前回のことを気にされていたのですね……)

*解説*

1 会社分割による再生について

 会社分割制度は、債権者の承諾なしにその有する資産、負債及び債権債務を新設会社または別会社に承継または旧会社に残存させるか決定できるため、多角化した事業を分社化して効率化する手法や、各社の同一事業を新設した合弁会社に統合する手法として用いられてきました。その後、旧商法の改正および会社法の制定で、債務超過会社でも会社分割が可能となるなど、会社分割の要件が緩和されたことにより、再生案件でも会社分割を用いたスキーム(第二会社方式)が多く採用されています。

 

2 濫用的会社分割

 しかし近年、濫用的な会社分割の事例が増えています。例えば、会社経営者が、会社債権者の知らない間に、金融債務を切り捨てる目的で金融債務や遊休資産のみを旧会社に残し、優良資産や高収益事業を新会社に移転させるという手法です。

 このような濫用的会社分割に対しては、裁判例では、商号を新会社が続用する場合には会社法22条1項を類推する方法や、破産手続きの場面では否認権を行使する方法、新設会社の法人格を否認する法理などを用いて債権者を救済してきました。そして、最高裁平成24年10月12日判決では、会社分割も詐害行為取消権(民法424条)の対象となることが認められ、会社分割が詐害行為に該当する場合には、債権者は、会社分割を取り消した上で、目的物の返還請求や価格賠償を請求することができるようになり、旧会社に残る債権者の保護が図られるようになりました。

 

3 会社法の改正

 さらに、平成26年6月に成立した会社法改正法によれば、旧会社に残る債権者を害することを知って会社分割がなされた場合、この債権者は新設会社または承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求することができるようになるなど、債権者の保護が強化されました。

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